医師・歯科医師の取材は難しい?成功のポイントや勤務医or開業医の違いも解説

医師や歯科医師など、高度な専門知識を持つ人々への取材は、対人取材の中でも難易度が高い部類に入ります。
高い専門性を最大限に尊重しながらインタビューを行い、彼らが語る専門的な見解や事例を正しく理解し、読者にわかりやすく伝えることは、簡単なことではありません。
そこで今回は、医師(開業医・勤務医)や歯科医師に取材をするときのコツやポイント、医療業界ならではの注意点などについて、詳しく解説していきたいと思います。

【こんな方におすすめ!】

  • 医師や歯科医師への初取材で、どこまで専門知識を勉強するべきかわからない方
  • デリケートな業界なので、取材中や執筆時に配慮すべきポイントを知りたい方
  • 優秀な医師や歯科医師は別次元の存在に思えて、対話が成立するのか不安な方

医師や歯科医師の取材記事が掲載されるメディア

医師や歯科医師の取材記事はさまざまなメディアに掲載されています。

どのようなメディアに、どのような目的で掲載するのかによって、取材の仕方や記事の方向性が変わるので、まずは想定されるメディアの種類を整理しておきましょう。

新聞・雑誌新聞や雑誌の特集記事、医療・健康・科学に特化した専門誌など。一般の読者に向けた医療や健康管理に関するアドバイス的な記事から、その分野の専門家に向けた最新医療の情報など、テーマはさまざま。
テレビ・ラジオニュース番組、ドキュメンタリー、トークショーなど。特定の患者や医師・歯科医師、病院・クリニックを特集する番組や、最新医療や技術の紹介にスポットを当てる番組などが想定される。
オンラインメディア      ニュースサイト、ブログ、ポッドキャスト、病院やクリニックのHP、検索・予約ポータルサイトなどのデジタルメディア。メディアの趣旨や読者層などの特性に合わせた取材・執筆が必要。
学術誌医療の研究成果を発表する学術誌にも、医師や歯科医師を対象としたインタビュー記事が掲載されることが多い。一般の読者よりも専門家向けに書かれるため、取材者・執筆者にも高度な知識が必要となる。
職業情報サイト・
学校パンフレット
医師や歯科医師を目指す学生に向けた医師・歯科医師のインタビュー記事。専門的な情報は少なめの傾向だが、難解な内容をわかりやすい言葉に置き換えるなどの工夫が求められる。

なぜ医師や歯科医師への取材は難しい?

医師や歯科医師の取材記事はニーズが高い一方で、取材や執筆に際しては医療業界ならではの事情や制約があり、センシティブな分野だと言われています。

しかし、困難だと思われることも、その理由がわかれば解決策と手法が見えてくるもの。
そこで、「医師や歯科医師への取材は難易度が高い」とされる理由を解説していきます。

高い専門知識が求められるから

「医師や歯科医師への取材は難しい」と考えられている一番の理由は、何といっても高度な専門知識が求められるからでしょう。

医師や歯科医師の方々は、その資格を得るために膨大な知識と技術を身につけていることはもちろん、資格を得てからも実務経験を積みながら日々学び続けています。
そのため、病状や治療に関することはもちろん、医療業界特有の専門用語、医療や福祉まわりの法制度や各種手続きなど、非常に広範な専門知識を有しているのです。

一般の人々がわかりにくい専門用語を日常的に使っているケースもあり、インタビュアーは取材中に対話の難しさを感じ、戸惑ってしまうかもしれません。

コンプライアンスが厳しいから

医療は人の命にかかわる重大事項。そのため、医療関連情報の発信は法律や規定で厳しく管理されています。
医師や歯科医師の取材記事が載る媒体はさまざまですが、いずれも法律・規定を遵守して適切に情報提供しなければなりません

よく知られている例としては、医療業界での広告やプロモーションに関する規定を定めた「医療広告ガイドライン」が挙げられます。
誇大広告、医療結果の保証、特定の治療法や製品の優越性の誤った主張などを禁止し、消費者を誤解や誘引から保護することを目的とした規定です。

医療関連の広告は一般的に専門家による審査や承認が必要とされていますが、インタビュアーも一定の知識を持って配慮しながら取材をしないと、医師や歯科医師と信頼関係を築けない、読み手に不利益を与えてしまうなどのリスクが生じます。

医療倫理やプライバシーへの配慮が必要だから

医師や歯科医師への取材は、医療倫理や患者のプライバシー保護に配慮することが非常に重要です。
医療関連の取材では、特に具体的な事例を尋ねる場合などに、個人の健康情報や病状、治療方法に踏み込む可能性があります。
しかし、これらの情報は法律で保護されており、許可なく公開すると違法になってしまうのです。

医療倫理を遵守して、患者の権利とプライバシーを尊重しながら取材を行うことは、ライターや編集者にとって必要不可欠な配慮と言えます。
また、記事を書く過程においても、これらの情報を適切に扱わなければなりません。
たとえ実名を伏せるにしても、記事にして差し支えのない情報なのかどうかを、医師や歯科医師、医療まわりの法律に詳しい専門家に確認するのが無難でしょう。

医師・歯科医師取材のコツ

それでは、医師(開業医・勤務医)や歯科医師に取材をするときのコツやポイントを、具体的に見ていきましょう。
事前準備の段階から取材現場で意識しておきたいことまで、重要なポイントを5つ挙げて詳しく解説します。

取材に必要な専門知識を事前リサーチする

医師や歯科医師は非常に高度な専門的知識を持っていますが、インタビュアーが具体的で明確な質問をしなければ、その真骨頂を引き出すことはできません。

もちろん、最終的に読者に伝わる記事を書くためには、わからないことは聞き流すよりも積極的に質問したほうが良いです。
しかし、あまりにも取材者側の知識が欠けていると、対話が円滑に進まなくなります。

取材の主旨から逸れた知識まで追求する必要はありませんが、病院やクリニックのHPなどを必ずチェックしておくほか、取材対象者の専門分野や、その分野の最新トレンドやニュースについても、しっかりとリサーチしてから取材に臨むようにしてください。

勤務医と開業医の違いについて理解する

たとえ専門分野が同じでも、開業医と勤務医で異なる点についても理解が必要です。
日々携わっている職務の内容、責任範囲、経営面で考慮すべき事項など、勤務医と開業医では多くの違いが存在することを忘れてはいけません。

勤務医は病院やクリニックで働き、その組織の方針に従って診療を行っています。
一方の開業医には、治療方針等についての決定権を持ち、自分自身でクリニックを運営するという「経営者」の側面もあるのです。

これらの違いをしっかりと理解していれば、取材対象である医師・歯科医師の立場に則した、より適切な質問を投げかけられるようになります。
それぞれの視点や取り組みの違い自体が興味深いトピックにもなるので、ぜひ念頭に置いておきたいところです。

取材目的を明確にして質問リストを作成する

医師や歯科医師への取材記事はさまざまな種類があるので、取材目的を明確にして、必要な情報を整理することが重要です。
たとえば、病院やクリニックを紹介する記事なのか、医師や歯科医師の個人にスポットを当てる記事なのか、治療法や健康法に関する記事なのかで、スタンスが変わってきますよね。
最終的にどんな記事を作ることが目的なのかをハッキリさせて、取材の方向性を決定しましょう。

さらに、目的に基づいた質問リストを事前に作成しておくと、効率的に取材を進めて必要な情報を漏れなく得ることができます
質問リストを、あらかじめインタビュイーに共有しておくのも有効です。
もちろん、医師や歯科医師は非常に多忙なので、取材日までに目を通せないケースもあるのですが、回答を整理する時間があると先方も安心できますよ。

医療倫理やコンプライアンスへの配慮を示す

医師や歯科医師への取材では、医療倫理やコンプライアンスへの配慮を徹底する必要があります。
医療業界特有の情報の扱い方に対する適応、患者のプライバシー保護、誤情報の拡散防止に直結するからです。

これらを無視すると、取材記事を掲載した媒体はもちろん、医師や歯科医師が倫理規定に違反したとみなされ、信用を失ってしまう危険性も。
そのため、医師や歯科医師は取材を受ける際、いつも医療倫理やコンプライアンスに関する不安を抱えていると言っても過言ではありません。

そこに取材者側が理解を示し、「掲載可否を再度きちんと確認します」「後ほど原稿チェックを依頼します」などの一言を添えることで、医師や歯科医師は安心してインタビューに応じることができるでしょう。

リラックスした雰囲気を作る

高い専門知識を持つ医師や歯科医師への取材は、インタビュアーにとって強い緊張を伴うかもしれませんね。
しかし、人の命や健康に携わる医師や歯科医師は、温かく親しみやすい人柄であったり、ポーカーフェイスの奥に熱い情熱や志を抱いていたりする方が多いものです。
むしろ、患者に寄り添う気持ちや情熱がなければ、成り立たない職業とも言えます。
医師や歯科医師へのインタビューでは、その部分こそを最大限に引き出したいところ。

ところが、インタビュアーがガチガチに緊張したり、過度にかしこまったりしていると、医師や歯科医師はリラックスして本音を話すことができません。
取材は「質疑応答」ではなく「対話」なので、どのインタビューでもリラックスが重要なのですが、緊張しやすい医師・歯科医師取材だからこそ、いつもより意識して臨みましょう。

医師・歯科医師インタビューのおすすめ質問例

医師や歯科医師の取材では、具体的で明確な質問をすることが重要です。
また、取材目的や取材対象の専門分野に応じて、質問を変えていく必要もあります。

一般的な質問例をいくつか挙げますので、ご自身が携わる案件に合わせてセレクトしてみてくださいね。

医師や歯科医師を目指したきっかけ

進学やリクルート系の記事などでは、鉄板と言える質問になります。
また、病院・クリニックの紹介記事、医師・歯科医師個人にスポットを当てる記事でも、その人柄やバックグラウンドを伝える有益な情報になるでしょう。

仮に記事に使う予定がなくても、取材の序盤に経歴と合わせてヒアリングすることで、お互いの緊張をほぐすウォーミングアップができますよ。

専門分野の課題・トレンド・展望

インタビュイーの専門分野における課題や研究トレンド、医療・歯科医療の現場で使用されている最新の技術やツールに関する情報は、主に学術誌などでニーズが高いです。
また、最新の情報を得たいと思っている患者にとっても、有益な情報となるでしょう。

現状をふまえた上で、「今後5~10年の間に、どのように進化していくと思いますか?」など、未来への展望もヒアリングしてみると良いですね。

これまでの事例やエピソード

これまでの診療における具体的な事例、キャリアの中で最も印象に残っているエピソードなどは、読者の興味を強くそそる内容です。

ただし、患者のプライバシーへの配慮が必須になるので、医師や歯科医師の反応を見ながら慎重にヒアリングしていくのがベター。
心を開いて話してもらうためには、こちらから配慮を示すことがポイントになります。
記事でどのように表現するのかを、取材中にある程度打ち合わせしておくと安心です。

医師や歯科医師のパーソナルな事柄

医師・歯科医師の人柄や特徴を読者に伝えるために、パーソナルな部分に少し踏み込んだ質問をするのもおすすめです。

医療や歯科医療に関連のある事柄でいうと、インタビュイーが個人として直面している課題や挑戦していることなどをヒアリングしてみましょう。
プライベートに関しては、失礼のない質問を選ぶことが大前提となります。
趣味や休日の過ごし方など、インタビュイーが楽しく話せる内容がおすすめですよ。

医師・歯科医師インタビュー記事の例

最後に、現在インターネット上に公開されている医師や歯科医師のインタビュー記事の中から、おすすめしたい記事をご紹介します。
記事の目的やインタビュイーの属性などが異なるパターンでピックアップしましたので、ぜひ参考にしてみてください。

【CLIUSクリニック開業マガジン】開業医・齋藤哲史氏のインタビュー記事

記事タイトル:【開業医インタビュー】分院の院長として開業する道を選んだ理由。コロナ禍で行った試行錯誤とは?
分院の院長として開業した齋藤氏が、コロナ禍での試行錯誤や発熱外来開始の経緯などを語る。開業医ならではの経営課題や、分院開業のメリット、これまで重ねてきた地道な努力についても言及。

【DOCTOR’S INTERVIEW】心療内科 院長・本田浩一氏のインタビュー記事

記事タイトル:難治性のうつ病治療に光明。薬を使わない「r-TMS療法」
特定の治療法がテーマの記事。治療内容の詳細や期待できる変化について、心療内科で院長を勤める本田氏が、事例を示しながら語っている。コンプライアンスに抵触しない表現や患者のプライバシーへの配慮も必見。

【デンタルハッピーDr.】歯科医師(勤務医)・佐藤貴宣氏のインタビュー記事

記事タイトル:より臨床に携わりたいと考え、卒後3年目で転職。将来は実家の歯科医院を継ぐため今はココで修行中。
歯科医師(勤務医)として活躍する佐藤氏が、働きがいや患者とのコミュニケーション等について詳しく語っており、就職や転職を検討中の読者は必読。インタビュイーの人柄が伝わる写真や親しみやすい文体も特徴的。

【タウンニュース】神奈川県青葉区歯科医師会・近藤氏のインタビュー記事

記事タイトル:歯科医師会インタビュー 「歯科治療は継続を」 新型コロナ対策は徹底
021年6月に神奈川県の【タウンニュース】に掲載された記事。当事はコロナ禍で敬遠されがちだった歯科診療の重要性とあわせて、感染の実態や対処法などが、3人称の文体でシンプルに記述されている。

【時事メディカル】東大医学部・原田美由紀准教授のインタビュー記事

記事タイトル:「不妊治療」を受けやすい職場環境を~東大医学部・原田美由紀准教授インタビュー~
インタビュー企画「知っておきたい不妊症・不育症」の第2弾。不妊に悩む人々の実態や治療の詳細、仕事や日常生活と治療を両立する難しさなどが女性医師の目線で語られ、社会制度等の課題も鋭く切り込む。

まとめ

医師や歯科医師への取材は、専門知識の理解、医療倫理・プライバシー・コンプライアンスへの配慮など、さまざまな観点からの準備が必要です。
記事で解説してきたコツやポイントを押さえて適切に対応することが、医師や歯科医師から有益な情報を引き出して、読者に正確かつ有意義な形で伝えるための鍵になります。

命や健康に関わっているプロフェッショナルたちの話は、多くの人々にとってかけがえのない情報になるはずなので、ベストを尽くして取材に臨みましょう!