酪農・畜産・水産業界の取材で、考慮したいポイントやインタビューのコツを紹介!

酪農・畜産・水産は、農業・林業と同じく「第一次産業」のひとつ。
これらは、生活に不可欠な産業である一方で、慢性的な人手不足に悩んでいたり、環境問題や気候変動の影響を直に受けていたりと、さまざまな課題が多い分野です。
そのため、取材記事を通じて世の中に情報を発信することには、大きな意義があります。
今回は、酪農・畜産・水産の分野で取材をするときのコツやポイントを考察&解説していきましょう!

【こんな方におすすめ!】

  • はじめての酪農・畜産・水産系取材で、基本的なノウハウが知りたい!
  • 都会育ちでまったく知識がない…こんな私でも取材が成り立つの?
  • 事前準備をがんばりたいけれど、そもそも何をリサーチしたら良いのかわからない

酪農・畜産・水産って、どんな産業?

酪農・畜産・水産という言葉自体は一般の方々にも馴染みがありますし、生活に欠かせない産業だということは周知の事実です。

しかし、具体的にどのような産業なのか、酪農・畜産・水産を取り巻く課題や現状について、よく知っているという方は意外と少ないのではないでしょうか。

そこで、まずはそれぞれの産業の基本的な情報をまとめてみました。

酪農とは?

酪農は、主に乳牛の飼育と、乳牛から得られる牛乳や乳製品(チーズやバターなど)を生産する産業で、農業の一部門にカテゴライズされています。

酪農の仕事では、乳牛の飼育と管理、飼料の調達と管理、牛乳の採取、牛乳を加工して乳製品を生産する技術、生産した乳製品の品質管理など、多様な知識が必要です。

酪農は食糧供給の重要な源であり、地域社会の経済に対しても大きな影響力を持ちます。
その一方で、温室ガスの排出、肥料や排泄物による土壌や水源の汚染、自然資源の過度な利用など、酪農の分野はいくつかの環境問題を抱えています。

また、動物福祉の観点からは、乳牛の生活環境や処遇が問題視されることもあるようです。
そのほかには、需要と供給のバランスが崩れることによる生乳廃棄の問題などもよく知られています。

畜産とは?

畜産は、家畜(牛、豚、鶏など)を飼育して、肉や卵、乳などを得る産業です。

畜産の仕事には、家畜の選択、飼育、飼料の管理、健康管理、そして生産物の収穫や加工などが含まれます。
カテゴリとしては農業に分類され、広義では酪農を畜産の一部と考えることもできますね。

畜産は酪農と同様に、食料供給の重要な源であり、地域社会の経済活動においても重要な役割を担っています。
抱えている課題も酪農とほぼ同様で、飼育の過程における温室ガスの大量放出、過剰な飼料の使用による生態系への影響、土壌や水源の汚染など、環境問題との関わりが深いです。

また、適切な運動空間を確保する、家畜にとってストレスの少ない環境で飼育する、病気や怪我の管理を徹底するなど、動物福祉の観点からも適切な管理が求められています

水産業とは?

水産業とは、海洋や淡水(川、湖、沼など)から、魚、貝、藻類などの水生生物を捕獲、または養殖する産業を指します。
海で魚や甲殻類、貝などの生き物を捕獲する仕事は、「漁業」と呼ばれることが多いです。

水産業は酪農や畜産と同じく食料供給の重要な源であり、地域社会の経済活動にも大きく寄与しているほか、雇用創出や貿易においても重要な役割を果たしています

しかし、水産業も多くの課題を抱えているのが事実。
過度の漁獲による資源の枯渇、海洋生態系への影響、違法・無法国・無規制漁業(IUU漁業)などは、近年特に大きな問題になっていますね。

養殖業においては、養殖場の環境汚染、遺伝的多様性の喪失、病気の蔓延などの問題があります。
水産業では、水産資源の持続可能な管理と利用が急務となっているのです。

酪農・畜産・水産系の取材記事が果たす役割

生活に欠かせない存在であるにもかかわらず、環境問題など生活に直結する課題をいくつも抱えている酪農・畜産・水産の分野。
だからこそ、取材記事によるリアルな情報発信には、非常に大きな意義があります。
ここでは、酪農・畜産・水産系の取材記事が果たす役割を考えていきましょう。

消費者への情報提供と地域振興

取材記事は、酪農・畜産・水産業の概要、技術、政策、トレンドなどを、一般の人々や関連業界に伝える情報源として重要です。
これらの情報は、消費行動において何らかの選択をする際にも、大いに参考になります。
たとえば、「個人の興味や嗜好に合った製品を選ぶ」「環境問題や貧困・飢餓の問題に配慮した製品を選ぶ」などです。

また、地方の酪農・畜産・水産について取材&記事化する際には、その地域の特色や特産物、独自の取り組みや催しなどに関する内容が盛り込まれるケースも少なくありません。
その場合には、観光や地方製品の消費促進にも寄与することができるでしょう。

次世代を担う人材の育成

酪農・畜産・水産の分野は、慢性的な人手不足・後継者不足に悩んでいる業界でもあります。
「この仕事に従事したい」と思う若者が全国的に少ないことに加え、酪農・畜産・水産が盛んな地域で育った子どもたちも、大人になると都市部に出てしまうケースが多いようです。

しかし、「SNSで仕事の魅力を発信したところ、遠洋漁業の応募者が急増した」といった事例もあると聞きます。

酪農・畜産・水産は、重要な食料源であり、私たちの生活に欠かせない産業です。
だからこそ、これらの産業の重要性や仕事の魅力を発信し、人材を確保・育成していく必要があります。
特に酪農・畜産・水産が身近ではない環境で育った人々は、取材記事を通してその実態や魅力を知り、興味を持つチャンスが得られるはずです。

課題解決の方法や成功事例の共有

酪農・畜産・水産などの第一次産業は、慢性的な人手不足を筆頭に多くの課題を抱えている分野であり、その課題を解決するべく、さまざまな施策が進められています。

特に著しいのはテクノロジーの進化で、その例として挙げられるものが以下です。

  • ウェアラブルデバイスやAIを活用した家畜の健康状態のモニタリング、繁殖・疾病の管理
  • 自動搾乳機や飼料配給ロボットの導入・衛星データやAIを用いた海洋資源の管理
  • 遺伝子改良による病気抵抗性の向上および養殖業の発展

これらのテクノロジーによって各分野の効率性と持続可能性が格段に上がることが期待されており、取材記事による成功事例の発信は大きな意義を持っています

問題提起と意識の向上

酪農・畜産・水産といった産業が抱える環境問題や動物福祉問題についての取材記事は、問題提起の重要な手段となります。

酪農が温室ガスの排出に大きく関わっていること、畜産が大量の飼料や水資源を消費していること、水産では過度な漁獲が海洋生態系のバランスを崩すリスクを秘めていること─。
生活に欠かせない産業であるからこそ、持続可能性に関わる問題を公にすることは非常に重要です。

動物福祉問題についても同様で、飼育環境やストレスを避けるための対策の重要性は、消費者が皆で考えていかなければならない問題と言えるでしょう。

取材記事で問題提起をすることによって、消費者の選択や行政の政策、企業の経営方針など、社会全体の行動を変えるきっかけになることがあります。

酪農・畜産・水産系の取材のコツ~①事前準備編~

酪農・畜産・水産などの分野は、多くのライターや編集者にとって、おそらくあまり身近ではない業界だと思います。
そのため、取材の依頼を受けて戸惑ってしまう方も少なくないのではないでしょうか。
有意義なインタビューをするために、事前準備のコツ・ポイントから具体的に解説していきましょう!

事前調査で各分野の基礎知識を理解する

取材をするにあたって、それぞれの産業の基礎的なプロセスや課題を理解することは非常に重要です。
ある程度の知識があってこそ、インタビュイーが話す事柄を深く理解して、適切な質問をすることができます。

この記事の冒頭で、各産業の概要については説明しましたが、自身の案件が確定したら、該当する業界についての基礎知識をさらに詳しくリサーチしたいところです。
たとえば、飼育している動物の種類や漁獲(または養殖)している水産物の種類、地域などによっても、ノウハウや課題が大きく異なっていたりします。

地元の経済や自治体との関わりが深い業界でもあるので、そのあたりもリサーチしておくと良いですね。

持続可能性や動物倫理の問題について理解する

こちらも、酪農・畜産・水産の分野では「基礎知識」と言っても過言ではない内容です。
前述のように、環境問題や動物倫理の問題は、これらの産業とは切っても切れない関係性にあるため、取材&記事化においては重要な視点の一つとなるでしょう。

もちろん、記事の目的や方向性によっては、ほとんど言及しない場合もあると思います。
しかし、酪農・畜産・水産に携わっている方々は、多かれ少なかれこのような問題と向き合いながら仕事に臨んでいることを考えると、事前知識として持っておくに越したことはありません

最新のトレンドやニュースを調査する

酪農・畜産・水産の分野が抱えている課題や、最新のトレンド(テクノロジーなど)、業界関連のニュースなども、一通りリサーチしておきましょう。
産業の現状を理解することで、インタビュイーとの対話が円滑になり、関連性の高い時事的な質問が可能になります

最新の情報に基づく取材は、現在の状態とその背後にある複雑な要素を理解するという意味で、読者にとっても価値があります。
これらの産業は、環境、技術、政策などによって日々急速に変化を続けているため、最新情報を掴んでおくことは特に重要と言えるでしょう。

酪農・畜産・水産系の取材のコツ~②インタビュー編~

次に、実際のインタビューにおけるコツを解説していきましょう。
まずは、取材の目的や方向性、リサーチした内容を踏まえて、記事の核となる部分の質問をリスト化しておくのが、対人取材における基本です。
ここでは、質問リストをもとにインタビューを進めていくうえで、心がけておきたいポイントを挙げていきます。

オープンマインドで取材に臨む

よく馴染みのある業界の取材や、馴染みがないからこそ事前準備を徹底した場合に起こりがちなミスの一つは、「先入観や固定概念にとらわれてしまうこと」です。

酪農・畜産・水産などの産業をマクロに見たときに、一定の傾向やトレンドがあることは確かですが、そこに関わる人々の経験や見解は十人十色。
酪農・畜産・水産の分野は、地域や文化、環境、経済、法律など、あらゆる要素が複雑に絡み合っていることもあり、それぞれの視点を公平に取り扱う必要があるのです。

また、新しい情報や予想外の視点が出てくることも取材の醍醐味であり、そのためには柔軟性が求められます。オープンマインドは、事実を深く理解して正確に伝えるため、多様な視点を尊重するために、不可欠な要素と言えるでしょう。

細部に注目する

酪農・畜産・水産といった産業は、生物の生態、気候、飼料、病気、技術の進歩など、記事のトピックになりそうな要素が豊富です。

日々の業務ひとつを取ってみても、飼育環境や飼料の選定、病気の管理の仕方など、細部にわたるさまざまな配慮が成されています。
そのため、一見取るに足らないような情報が、生産効率や品質、持続可能性、動物福祉などに、大きく影響を及ぼす可能性があるのです。

小さな情報を見逃さず理解することで、それぞれの産業の本質的な問題や課題、そして解決策を見つける手がかりになることもあります。
細部に注目した取材記事は、読者が興味や理解を深めるためにも役立つので、ぜひアンテナを張ってみてくださいね。

現場のルールを守る

農場や畜産場、漁場などは、厳しいルールや規制に基づいて運営されています。
これらは、動物の健康や福祉、労働者の安全、食品の安全性、環境保護などを保障するためのものです。

取材で動物の飼育場や水産物の加工場などを見せてもらう際には、現場のルールを遵守するように徹底してください。
働く人々や自分自身、動物たちや消費者の安全対策として重要であることはもちろん、インタビュイーの属する組織やコミュニティのルールを遵守することは、相手への尊重を示して信頼関係を築くためにも重要です。

また、ルールや規制を理解して遵守することは、インタビュアー自身が産業の現実をより正確に把握して、読者に伝えるためにも役立ちますよ!

酪農・畜産・水産系インタビューの質問例

ここでは、酪農・畜産・水産関係の取材で、鉄板の質問や記事化に役立つ質問の例を挙げていきます。
記事の目的や方向性によって適切な質問は変わってくるので、ご自身の案件に合わせてセレクトしてみてくださいね!

酪農・畜産・水産業界の魅力・仕事のやりがい

酪農・畜産・水産を専門とする学校のHPやパンフレット、リクルート系の記事では鉄板の質問です。
実際にその業界で働いている人から各産業の魅力や仕事のやりがいをヒアリングすることで、読者はリアルな情報を得ることができます。

人手不足が深刻な業界でもあるので、後進を育てていくためにも、その魅力をたっぷりとアピールしたいところ。各産業への理解や関心が深まることによって、関連ビジネスの立ち上げを図る人が出てくるなど、業界全体の発展にも寄与できるかもしれません!

注力しているプロジェクトや取り組み

インタビュイーが特に価値を見出している具体的な活動にフォーカスする質問です。
各産業における具体的なチャレンジや成功例の発信は、一般の読者の興味を引くことはもちろん、同業者にとっても大変価値ある情報と言えます。

インタビュイーがどのような価値観を持ち、何を重視しているのかを理解できるので、「人」にフォーカスするタイプの記事でも役立ちますよ。
プロジェクトや取り組みを始めたきっかけ、困難やトラブルが起きた際にどう乗り越えてきたのか、どのような成果が上がっているか等、詳細にヒアリングしてみましょう。

最新技術の導入と業務改善の状況

酪農・畜産・水産などの業界は、技術革新が著しいことも大きな特徴の一つです。
ウェアラブルデバイスやAIの活用などの最新技術が当たり前に使われている農場や畜産場、漁業関連施設なども、今は決して珍しくありません。

テクノロジーの導入有無は現場によって異なりますが、先進的な取り組みをしている様子があれば、その詳細と業務改善の状況は必ずヒアリングしておきたいところ。
具体的な改善例を通じて、最新技術の意義を明確に示すことができる上、これから導入を考えている同業者にとっても貴重なモデル事例となるでしょう。

環境問題や動物福祉に対する取り組み

酪農・畜産・水産といった産業にとって重要な課題である、環境問題や動物福祉。
インタビュイーがこれらの問題に対してどのように対応しているかを理解することは、その企業や組織の価値観や倫理観を評価するために重要だと言えます。

取材対象の価値そのものを高める要素ですし、同業者にとっても大変参考になる情報です。
また、具体的な取り組みを発信することは、社会全体の問題意識や倫理観を高めるためにも役立ちます
積極的に取り組んでいる場合は、ぜひヒアリングして記事に盛り込みたいですね。

今後の目標や計画

未来のビジョンを理解することで、インタビュイーが抱えている課題や産業の可能性について、深く掘り下げることができます。

インタビュイーが属する組織や産業全体の動向、成長の見込み、潜在的な問題などを浮き彫りにしながら、未来の動向を理解するのに役立つでしょう。
その目標や計画を達成するための課題や、課題をクリアするための施策なども、あわせてヒアリングすると良いですね。

記事の締めとして使いやすく、インタビュイーの人間性や価値観を伝えられる鉄板の質問です。

酪農・畜産・水産系インタビュー記事の例

最後に、酪農・畜産・水産関連のおすすめインタビュー記事をご紹介します。

株式会社トップファーム 大塚 弘章さんのインタビュー記事

記事タイトル:大切な牛さんに愛情をたっぷり注ぎ大きく育てる!

高校生・大学生のためのキャリア探求サイト【北海道 未来のしごとの参考書】に掲載。大規模農場で酪農に従事する大塚さん。日々の業務内容のほか、仕事に対する真摯な姿勢、牛に対する愛情、温かい人柄がたっぷりと伝わる記事。

全国畜産縦断いきいきネットワーク 会長・小林 陽子さんのインタビュー記事

記事タイトル:畜産経営に女子力の発揮~持続可能な畜産経営の実現に向けて女性の力を集結~

独立行政法人 農畜産業振興機構のHPに掲載。全国の畜産に携わる女性が集う「全国畜産縦断いきいきネットワーク」。畜産の魅力、同ネットワークの活動、「持続可能な畜産」への挑戦や取り組みなどが、女性ならではの目線から語られる。

株式会社RE-SOCIAL 笠井さん・江口さん・山本さんのインタビュー記事

記事タイトル:不安より使命感が上回った。3人のZ世代が立ち上げたジビエブランド「やまとある」

株式会社リクルートHPに掲載。大学時代に山林でのフィールドワークに衝撃を受けた3名は、学生時代に株式会社RE-SOCIALを設立。ビジネス化には難しい部分も多いジビエ。その背景とチャレンジに心打たれるストーリー。

株式会社ベンナーズ 社長・井口剛志さんのインタビュー記事

記事タイトル:「未利用魚」でサブスクビジネス 27歳社長が描く水産業の未来

朝日新聞が運営するウェブサイト【SDGs ACTION!】に掲載。市場に出回らない「未利用魚」を活用して新ビジネスを立ち上げた井口さん。企業の経緯や経営戦略、海洋資源問題への取り組み・SDGsへの貢献に関する内容も必読!

宮古市 産業振興部 水産課2名・宮古漁業協同組合 総務部1名・岩手県農林水産部 水産振興課1名のインタビュー記事

記事タイトル:海面養殖で水産業の活気を保ちながら、秋鮭が帰る海の回復を目指す

気候変動適応情報プラットフォーム【A-PLAT】掲載。4名のインタビュイーが、岩手県の水産業の現状と課題、震災の影響や気候変動への対処、今後の展望を語る。深く洞察された記事内容と、写真の効果的な使い方も印象的な記事。

まとめ

酪農・畜産・水産などの第一次産業は、食はもちろん地域経済などにも深い関わりがあり、私たちの生活に欠かせない存在です。

一方で、従事する人材が減っていたり、環境問題との因果関係が相互に深かったりと、課題が多い業界でもあります。
その分、取材記事が持っている意義や役割も大きいので、素敵な記事を世の中に発信したいですよね。

大切な産業に携わる人々に敬意を払いながら、実りあるインタビューを実現しましょう!