スポーツ選手の取材で注意したいポイント&選手の本音を聞き出すコツは?

スポーツ選手の取材は、芸能人等の取材と同様「新聞や雑誌などの主要メディアに掲載されるもの」というイメージが強いかもしれませんね。

しかし、近年はアスリートのインタビュー記事を多く掲載するスポーツ系Webメディアが増えていることもあり、取材のチャンスはWebライターにも拡大してきました。
また、体育系大学のパンフレットに在校生・卒業生選手の取材記事を掲載する、企業の社内報に実業団選手の取材記事を掲載するなど、スポーツ選手のインタビューは意外と多様なメディアで扱われているのです。

そこで今回の記事では、スポーツ選手への取材に関するコツやポイント、注意点などを解説していきます。

【こんな方におすすめ!】

  • はじめてスポーツ選手への取材をすることになり、緊張&動揺している方
  • スポーツの経験や知識がないため、何に配慮して取材したら良いかわからない方
  • スポーツ選手の本音を引き出し、読み応えのある記事を書きたい方

スポーツ選手に取材する目的・記事が担う役割

インタビューで有益な情報を得るためには、「そもそも何のために行われている取材なのか」を理解しておかなければなりません。

そこで、対スポーツ選手取材の意義、取材記事が担う役割(記事の目的)について考えてみました。

役割・目的1)情報の提供

スポーツ選手への取材が果たす重要な役割の一つは、ファンや一般の人々への情報提供です。
インタビュー記事を通して、選手のパフォーマンスやチームの状況、試合の戦略、個々の選手の進歩などを、読者に詳しく伝えることができます。

既存のファンにとって大変貴重な情報であることはもちろん、取材記事がきっかけで新たなファンを獲得できるかもしれませんし、競技そのものに対する世間の関心を高めるきっかけにもなるでしょう。

情報提供を目的とした記事は、新聞や雑誌といった主要メディアのほか、ネットニュース、スポーツ情報サイト、チームの公式サイト等によく掲載されています。

役割・目的2)選手の声を伝える

取材は、スポーツ選手が自分の意見・考え・感情などを公に表現する機会を提供します。
スポーツ選手は、注目される存在であればあるほど、自分の本当の気持ちとは違った形で報道がされたり、イメージが専攻してしまったりして、もどかしい気持ちを抱いていることも少なくありません。
幾度となくマイクを向けられていたとしても、スポーツ選手が本音を語れる機会は、それほど多いものではないのです。

また、選手の本音を知ることは、ファンや読者にとっても貴重な機会です。
選手とファンの間のコミュニケーションを助ける、選手の人間性を浮かび上がらせて新たなファンを獲得するなど、さまざまなメリットが想定されます。

役割・目的3)スポーツの普及・啓発

スポーツ選手への取材は、競技の魅力を発信するためにも大いに役立ちます
その選手が競技を極めるために行っている訓練や努力を知って、競技そのものの魅力を知る読者は少なくないでしょう。
この効果は、新しいファンを増やすことはもちろん、子どもや若い世代に競技への興味や参加を促すことにもつながります。

特にマイナースポーツの場合は、世間一般に知ってもらう機会が限られているため、ひとつの取材が競技の普及・啓発のための貴重な機会となるのです。
この類の記事は、その競技に特化したメディアのほか、スポーツ全般を扱うメディア、新聞(一般紙)などにも掲載されることがあります。

役割・目的4)選手やチームのブランディング

スポーツ選手やチームが競技活動を続けていくためには、シビアな話ですが「資金」も必要になります。
良好な練習環境を整えたり、競技に必要な道具をそろえたり、海外遠征を無理なく行うためには、スポンサーの存在が非常に重要なのです。

スポンサーになってもらうためには、その選手やチームに「投資をしたい!」と思ってもらう必要があり、取材記事がスポンサー獲得の手助けになることがあります
選手のパーソナリティ、バックグラウンドストーリー、成功の秘訣などを伝えることで、スポンサーシップやエンドースメントの機会が増え、選手の競技活動に貢献できるかもしれませんよ!

スポーツ選手の取材で気をつけたいこと

スポーツ選手の取材記事には多くの役割や意義がある一方で、取材そのものは非常にデリケートな部類に入るとも言われています。
スポーツ選手への取材が難しいと考えられる理由を、いくつか挙げてみましょう。

理由1)選手の感情や身体の状態

試合直後の取材では、まだ試合の興奮の最中にいるため、選手の反応が予測しにくくなる場合があります。
特に試合で思うような結果を出せなかった場合は、インタビュー自体が精神的な負担になるケースも想定されるでしょう。
また、試合の直前は心身ともに大変デリケートな時期なので、やはりインタビューには適していないと考えられます。

スポーツ選手の感情や身体の状態は、パフォーマンスやモチベーションは大きく影響するため、取材によって無理を強いるようなことは極力避けなければなりません。

理由2)スケジュールの制約

トレーニング、試合、移動、休養など、スポーツ選手のスケジュールは非常に厳しく管理されています。
そのため、取材対応に時間を割いたり、取材に適した時期を見つけることが難しいこともあるでしょう。

ルーティンを少し崩すだけで一気にコンディションが乱れてしまうという選手も珍しくないため、取材のスケジュールは可能な限り相手に合わせて設定する必要があります。

ライターや編集者としては、充実した記事を書くために「ある程度まとまった取材時間が欲しい」思ってしまいますが、30分程度の時間でも確保しにくいケースも覚悟しなければなりません

理由3)プライバシーの問題

スポーツ選手には、プライバシーを守ることに敏感な方が多いです。
どんなに世間からの注目度が高い選手であっても、当然ながら自身のプライバシーを守る権利があります。

また、スポーツ選手の場合は、プライベートなことを詮索されて行動に制限が出ることによって、日々のトレーニングに支障をきたしてしまうというリスクも。
そのため、自分のパーソナルな情報や感情を公にすることに強い抵抗があるスポーツ選手は少なくないのです。

配慮したつもりで「これ程度なら大丈夫かな?」と思って尋ねたことが、不快感を与えてしまうこともあるので、注意深く取材を進める必要があります。

理由4)メディアトレーニングの影響

近年、取材を受ける機会が多いスポーツ選手は、メディアトレーニングを受けるのが一般的になっています。

その理由は、ひとつの発言が世の中に大きな影響を及ぼしたり、発した言葉が思わぬ誤解を招いたり、誤った形で報道されたりするリスクが高いから。
取材対応によって思いも寄らないトラブルが起こると、日々のトレーニングや選手としての活動にも影響するため、それを防ぐためにメディアトレーニングを受けるのです。

メディアトレーニングを受けたスポーツ選手は、公に話すときには一般的なコメントしか発しない傾向があるため、新しい情報やパーソナルな見解を得ることが難しくなるかもしれません。

理由5)言葉の壁

スポーツの世界は、どんどんグローバル化していますよね。
あらゆる競技において、日本のプロチームに外国籍の選手が所属している、日本にルーツがある海外育ちの選手が日本代表として活躍している等は、今や一般的な光景です。
そのため、取材対象のスポーツ選手が、日本語以外の言語を話すケースも珍しくありません。

外国語を話す選手の取材では、多くの場合は通訳さんがついてくれるので、自分がその言語に堪能であることはマストではないです。
ただし、意思の疎通が難しくなったり、選手の本意とは異なる解釈になったりするリスクは考えられるでしょう。

スポーツ選手に取材するときのコツ・ポイント

それでは、いよいよスポーツ選手の取材のコツを具体的に解説していきます。
前述の注意点を踏まえたうえで、5つのポイントをピックアップしてみましたので、ぜひ参考にしてください。

事前準備でリサーチするべき内容はコレ!

スポーツ選手の取材の事前準備で、必ずリサーチしておきたい内容は以下のとおりです。

  • 選手の基本的な情報(年齢、出身地、経歴など)
  • 選手のパフォーマンス記録(過去の試合結果など)
  • 選手が得意としている技術やプレースタイル
  • 重要な試合における選手の反応やコメント、過去の取材記事など

また、選手がどのような価値観を持っていて、何に情熱を注いでいるかを理解するために、競技以外の部分での趣味や興味、社会的活動などもリサーチしておくと良いですね。

これらの情報をあらかじめ得ておくと、取材でより深い質問ができるようになります。
また、スポーツ選手と心の距離を縮め、有意義な対話を生むための基盤にもなるでしょう。

“NG質問”は事前確認がおすすめ!

スポーツ選手には多くの場合、「触れられたくない質問」が存在します。
プライベートを詮索するような質問や、まだ昇華し切れていない悔しい試合結果に関する質問などが、その最たる例と言えるでしょう。

このような質問を無神経に投げかけてしまうと、選手の感情を傷つけたり、トラブルに発展したりするリスクもあるため、避けなければなりません。

とはいえ、インタビュアーが自身の判断でNG質問を回避するのは簡単ではないため、選手の代理人やチームの広報担当に、あらかじめ確認しておくことをおすすめします。
信頼の置ける身近なスタッフとインタビュアーの間に連携体制が取れていれば、選手も安心して話すことができるはずですよ。

スケジューリングは選手ファーストで

スポーツ選手の取材では、「選手ファースト」のスケジューリングを徹底しましょう。
なぜなら、彼らの選手生活やキャリアにとって、時間の使い方はとても重要だからです。

練習、試合、そして適切な休養は、良いパフォーマンスをするために欠かせないことであり、それらを妨げることは選手のウェルビーイングに悪影響を及ぼす可能性があります。
また、選手がリラックスして開放的な気持ちでインタビューに臨むためにも、選手の身体的・精神的な状態や、時間への配慮は必須

取材の日時は選手の日常生活を邪魔しないように設定するべきですし、こちらから配慮をすることによって信頼関係が築かれ、より深い対話と理解を促すこともできますよ!

フラットな視点で、フェアな報道を心がける

フラットな視点とフェアな報道は、スポーツ選手の取材において重要な原則です。
スポーツ選手の取材に限らず、報道の公平性とオブジェクティブな視点は、読者や視聴者に信頼性の高い情報を提供するための基盤ですよね。

偏見や先入観はもちろん、ファン心理による偏った報道も、選手自身の真意や事実を歪めて読者の理解を妨げる可能性があります。
選手のパフォーマンス、感情、発言を公平に報道してこそ、読者は価値のある情報を得ることができるのです。

また、フェアな報道は、選手との信頼関係を築くうえでも欠かせません
公平かつ中立的な報道を行うことで、選手からの信頼を得て、より深いインタビューができるようになります。

相手の事情に配慮し、効率よく取材を進める

スポーツ選手の毎日は、練習、試合、移動、必要な休息などで満たされているため、そのスケジュールに最大限の配慮をする必要があります。
取材は選手にとって、貴重な時間と精神的なエネルギーを要するもの。
ストレスや疲労は選手のパフォーマンスやウェルビーイングに直結するのです。
だからこそ、取材は長時間にわたることなく、選手が過度の疲労を感じないように行われなければなりません。

また、選手が自分自身の考えや感情をストレスなく表現できる環境を、こちらから提供することも重要になってきます。
インタビュアーが選手の事情に配慮して効率よく取材を進めることで、選手との信頼関係が築かれ、短い時間の中でも選手の本音や深い洞察を得られるでしょう。

スポーツ選手への取材で役立つ質問例

ここでは、スポーツ選手に取材をするときに役立つ質問の例をご紹介します。
あくまで一例にはなりますので、媒体や記事の趣旨に合わせてアレンジしながら使ってみてくださいね。

競技に対する情熱やモチベーションの源

選手が競技を始めたきっかけや、競技を続ける動機・モチベーションに関する質問です。
ここを深く掘り下げることで、選手のパーソナリティや競技に対する思いを、読者に伝えることができます。

競技人生におけるターニングポイントや、キーパーソンとの出会い、 苦しい時期を乗り越えたときの経験など、スポーツ選手は個々にさまざまなストーリーを持っているもの。
そのストーリーは、読者に感動と勇気を与えてくれるでしょう。

試合におけるプレッシャーの管理方法

スポーツ選手の精神力や、試合中のメンタル的な戦略に関する質問です。
選手がどのようにプレッシャーに対処し、成功につなげているのかを尋ねることで、選手のメンタルスキルや試合へのアプローチを読者に伝えることができるでしょう。

スポーツ選手のメンタルコントロール方法は、何らかのスポーツをしている読者はもちろん、一般の人々にとっても参考になる部分が多いです。

トレーニングや生活のルーティン

スポーツ選手が実施しているトレーニングの内容や、食事や休息など生活面についても理解が得られる質問です。
自身のトレーニング方法や生活のルーティンを選手本人が語ることによって、競技へのアプローチや献身性を読者に示すことができます。

日々のルーティンの中で最も重視していることや、長年続けていることなどもヒアリングしてみると良いでしょう。

キャリアの中で学んだ教訓

スポーツ選手がこれまでの経験から何を学んできたか、どのように成長したのかを理解するための質問です。
この質問は、選手の適応力や心身の強靭さを強調するだけではなく、心の葛藤や人間らしさも浮き彫りにすることがあります。

ただし、選手がまだ乗り越えられていない事案に触れる可能性もあるので、こちらから具体的な場面(試合など)を指定するのはNG。
エピソードの選定は選手本人に委ねて、ざっくりと尋ねるのがコツです。

オフシーズンの過ごし方

スポーツ以外の時間の過ごし方、それらが彼らのパフォーマンスや幸福に与える影響などを知ることができる質問です。

競技中には見えない選手の人間性に触れることで、選手への親近感がわきます。
また、オン・オフの切り替えの大切さや、バランスの取り方なども学べるはずです。
取材対象のスポーツ選手のファンには非常に興味深い質問ですし、スポーツをしている読者にとっても参考にできる部分が多いでしょう。

今後の目標や展望

スポーツ選手に限らず、多くの対人取材において「締めの質問」として鉄板ですね。
選手の価値観や、キャリアに対する視点を明らかにすることができます。
競技人生の最中にあるスポーツ選手はもちろん、競技から退いた選手に対しても、ぜひヒアリングしたい質問です。
若手の選手に対しては、尊敬している・目標としている選手と、その理由を深掘りしてみるなどのアレンジもできますよ!

スポーツ選手の取材記事の参考例

最後に、公開されているスポーツ選手の取材記事の中から、特におすすめしたい・参考になる記事をご紹介します!

車いすテニス・国枝慎吾選手のインタビュー記事

記事タイトル:国枝慎吾単独インタビュー「金メダルが取れていなかったら人生は変わっていた」車いすテニス引退を語る

【AERA dot.】掲載。2023年1月に引退を発表した国枝選手。輝かしいキャリアを積んだ車いすテニス界の世界的レジェンドが、自身の競技人生を振り返る。シンプルな三人称形式で長文ではないが、選手の本音が散りばめられており、良質な取材が想像される。

プロ野球・川﨑宗則選手のインタビュー記事

記事タイトル:【野球・川﨑宗則さんインタビュー】「歯をくいしばるのをやめたら、野球が楽しくなってきた」

【JSPO Plus】掲載。NPBからMLB挑戦を経て、現在はプロ野球独立リーグに所属する川﨑選手。親しみやすい人柄で解説者や野球教室のコーチとしても活躍する川﨑選手が、自身の半生を振り返りながら、野球との向き合い方やコーチングについて語っている。

レスリング・成國大志選手のインタビュー記事

記事タイトル:(前編)「もう生きていてもしょうがない」。レスリング成國大志、世界一を決めた優勝後に流した涙の真意 /(後編)「乙黒拓斗には一生勝てないんじゃないか」敗北を機に手にした世界一。レスリング成國大志が貫く二刀流

2022年9月の世界選手権で優勝を飾った成國選手の記事。【REALSPORTS】掲載。過去の失意や挫折を乗り越えて快挙に至るまでの道程が、三人称の文体でドラマチックに展開される。スポーツ選手の苦悩と競技にかける情熱が伝わる感動的なストーリー。

サッカー・権田修一選手のインタビュー記事

記事タイトル:有名人スポーツワンポイント講座/権田修一選手

学校情報サイト【日本の学校】に掲載。これから進路を決める高校生向けの記事。自身の経験を通じて、競技や学業との向き合い方についてのアドバイスが語られる。同サイトに多数掲載されている他競技・他選手の記事も要チェック!

バスケットボール・篠山竜青選手

記事タイトル:世界よ、驚け。アスリートインタビューVol.028 バスケットボール 篠山 竜青(文理学部卒業)

日本大学が発信する【N SPORTS】に掲載。日大卒業後に企業チームへ所属し、2016年よりBリーグ参入・プロ選手となった篠山選手。これまでのキャリアにおけるターニングポイント、これまでの戦績、来期への豊富など、読者の興味をそそる情報が満載。

まとめ

競技に情熱を捧げるスポーツ選手への取材は、通常の取材よりもデリケートな部分もあり、インタビュアーにとっては緊張を伴うものかもしれません。
しかし、特別な世界で活躍するスポーツ選手にインタビューできることは、ライターや編集者冥利に尽きる貴重な経験でもあります。

必要と思われる配慮を十分行ったうえで、そのインタビューが選手にとっても実りあるものになるよう、こちらもベストを尽くしましょう!