ビジネス誌やウェブメディア、企業のオウンドメディアやブログ、社内報、採用コンテンツなど、社長のインタビュー記事はさまざまな媒体に掲載されていますよね。
だからこそライターや広報担当者は、社長や経営者へのインタビュースキルを必ず磨いておきたいところ。
その一方で、企業のトップとしての視野と高い専門性を持つ社長へのインタビューは、難易度が高めであることも事実です。この記事では、社長インタビューを行うときのポイントや、読みごたえのある記事につながる質問の仕方などを解説していきます。
【こんな方におすすめ!】
- はじめて社長インタビューをすることになったけど、うまくできるか不安…。
- 以前の社長インタビューで微妙な雰囲気に…。次こそはスマートに取材したい!
- インタビューの質を上げて、より魅力的な記事を作りたい!
社長インタビューでありがちな失敗とは?
はじめに、実際に社長インタビューを経験したライターや広報担当者が語る「失敗例」をいくつかピックアップしてみましょう。
失敗例1)情報収集不足で質問が浅くなる
「企業や業界についての知識が乏しくて、社長に呆れられてしまったかも…」
「熱心に話してくれているのに理解できない用語や内容が多く、だからといって聞くに聞けなかった。」
取材前に企業や業界に関する最低限の情報収集ができていないと、深い部分まで掘り下げたインタビューを行うことはできません。
社長インタビューは本来、社長の考え方や企業理念を読者に発信するためのもの。
社長の想いを引き出すためには、事前準備はもちろん、質問内容にも工夫が必要になってくるでしょう。
失敗例2)質問の意図が伝わらない・会話が噛み合わない
「質問をするたびに、社長が回答に詰まったり困惑したりする様子が見受けられた。」
「いくつか質問を投げかけても求めているような回答が得られず、記事化に苦労した。」
「どのような情報を求めているか」が社長に伝わらなかったり、的外れな質問をしてしまったりすると、社長が本来伝えたいメッセージを発する機会を奪うことに。
そうなると、インタビューがスムーズに進まないばかりか、記事の目玉となる部分を取り逃すことにも直結してしまいます。
準備不足によってインタビュアー自身が記事の焦点となるポイントを把握できていなかったり、逆にマニアックな質問や難解な質問があまりにも多くなったりすると、陥りがちな失敗と言えるでしょう。
失敗例3)記事の主眼とズレてしまう
「採用向けのインタビューだったのに、業界の専門的な話ばかりになってしまった。」
「話は盛り上がったけど、後で確認したら読者ターゲットに刺さる内容が不足していた。」
どれほどインタビューの場が盛り上がっても、内容が偏っていたり、本来必要としていた情報を聞き出せていなかったりすると、良い記事を書くことはできません。
メディアやターゲットに合う内容をピックアップして何とか記事を作り上げたとしても、「あんなに話したのに、そこは全部カットなの?」と、不快な思いを抱かせてしまう可能性も…。
この失敗を防ぐためには、インタビュー前に主眼を共有しておく、話が脱線してきたら適当なところで軌道修正をするなどの対応が必要になります。
失敗例4)会話のテンポやノリが合わない
「的外れな質問はしていないはずなのに、最後までぎこちないインタビューだった。」
「質問&回答がひとつ終わるごとに、変な“間”が空いてしまった。」
「事前準備もマナーも心がけていたのに、社長が途中から不機嫌なご様子に…」
社長に対する敬意や関心が伝わっていない場合や、インタビュアーが会話の主導権を握りすぎた場合などにありがちな失敗です。気持ち良く話せる雰囲気を作れなかったり、社長が心を閉ざしてしまったりすると、質の良いインタビューはできません。
人間同士なので相性もありますが、相手の様子を見ながら慎重に質問を選び、丁寧にコミュニケーションを取っていくことが大切です。
雑談で場を和ませるにしても、社長が話しにくい話題や興味のない話題を振ると逆効果になるので、注意しましょう。
社長インタビューのコツ~①事前準備編~
ここからは、社長インタビューのコツを具体的に解説していきます。
社長インタビューに限ったことではありませんが、対人取材では事前準備をしっかり行うことが非常に大切です。
事前準備が甘いと、聞くべきことを聞き逃してしまうばかりか、会話が弾まず微妙な空気になったり、多忙の中で作ってもらった時間を持て余したりすることも…。
そこで、まずは社長インタビュー前の事前準備についてポイントを整理してみましょう。
記事の目的を明確にする
社長インタビューの目的は、企業や社長のメッセージを読み手に伝えることですが、記事の種類・読者層・企業の特徴などによって、焦点や質問内容が大きく異なってきます。
そのため、実際にインタビューを行うときには、「記事を発信する目的は何なのか」「読んでほしい相手は誰なのか」を、大前提として押さえておかなければなりません。
狙っているターゲットに訴求できてこそ、記事は意味を持つのです。
下記はざっくりとした一例になりますが、ぜひ参考にしてみてください。
記事の目的 | 質問例 |
企業のPR | ・企業理念やビジョン、アピールポイント ・商品・サービスの紹介 ・社会貢献活動などに対する具体的な取り組み |
社長の思想やビジョンの発信 | ・社長が考える経営哲学やビジョン ・組織づくりや人材育成について |
業界動向の情報提供 | ・業界全体の動向やトレンドへの見解 ・上記を踏まえた自社の方向性や今後のビジョン |
投資家向けの情報提供 | ・企業の現状や将来性について ・企業の業績や財務状況について |
企業と社長のバックグラウンドや業界についてリサーチする
インタビュー前には、企業と社長のバックグラウンドや業界について、可能な限りの調査を行いましょう。
企業の業績やビジネスモデル、社長のキャリアや考え方などを把握しておくと、より深い質問ができます。
社長側の心情としても「一から説明しなくても良い」となれば安心できますし、「よく調べているな」とか、「あの記事を読んでくれたのか!」と感じてもらえたら、さらに踏み込んだトークにつながるきっかけにもなるのです。
また、社長は百戦錬磨のビジネスマンであり、「初対面の相手と会うなら事前リサーチが必須」と考えている方が多いので、信頼を得るためにもリサーチは入念に行ってください。
業界の専門用語や近年の動向など最低限の基礎知識を得るほか、社長の趣味やライフスタイルなどパーソナルな部分も知っておくと、取材前後や合間の会話が弾みますよ!
質問を事前に用意してリストを作っておく
インタビューを行う際には、あらかじめ用意した質問をもとに進めるのが一般的です。
記事の目的に則した主訴となる部分の質問は、記事を製作する側で共有することはもちろん、取材依頼書などの書面を通してインタビュイーである社長にも通達しておきましょう。
そうすることで、社長も「伝えたい内容」を事前に整理できて話しやすくなりますし、インタビュー前に参考資料などを送ってくれることも多いです。ただし、実際のインタビューにあたっては、用意しておいた質問への回答を得るだけではなく、会話の流れに沿って新たに質問を振りなおす柔軟性も必要になってきます。
記事の要となる質問・必ずヒアリングしたい内容はあらかじめリストアップしておき、いざインタビューが始まったら臨機応変に対応していきましょう。
社長インタビューのコツ~②取材編~
次に、取材の現場における社長インタビューのコツを解説していきます。
社長インタビューでは、社長を前にして過度に緊張してしまう、立場や年齢のギャップから会話が弾みにくいなどのリスクが想定されます。
インタビュー中に焦らないためにも、コミュニケーションの取り方や質問の仕方などのポイントをしっかりと押さえておきましょう。
相手の話に関心を示す
対人インタビューでは、相手に対して敬意と関心を示すことが重要です。
社長の話を熱心に聞く姿勢を示し、相手が話している内容について深く理解するように心がけましょう。
相手の目を見て話を聞く、適度に相槌を打つなど、コミュニケーションの基本となる所作はぜひ実践してください。
相手が話した内容について追加質問をしていくと、より深い洞察を得ることができます。
企業や業界に対する基本的な知識については事前にリサーチしておくべきですが、もしインタビュー中に疑問点が出てきたら、聞き流さずに質問するのがおすすめ。
明らかな準備不足でない限り、「不勉強で申し訳ないのですが…」「教えていただきたいのですが…」などの枕詞を使えば、快く教えてくださる方がほとんどです。
フラットな気持ちで臨む
社長インタビューの前には事前のリサーチや準備が不可欠ですが、あらかじめ調べた内容に拘りすぎたり、決め付けたりするのは好ましくありません。
HPに載っている企業理念や社長メッセージ、既に出ている社長インタビューの記事などは、たしかに貴重な情報です。しかし、せっかくの新規取材なのですから、これまでは語られていなかった内容や、最新のメッセージを引き出したいところ。
事前に得た情報を共通認識としながらも、そこをさらに深堀りしてみたり、「こちらのインタビュー記事ではこのように語られていましたが、直近の情勢を踏まえて何か心境の変化はありましたか?」と尋ねたりすることで、より有意義なインタビューになるでしょう。
社長の意見を尊重する
インタビューでは、こちらから質問をして社長に答えてもらう流れが基本ですが、より深い話を聞き出すために、インタビュアーが自分の見解を述べる場面も出てくると思います。しかし、このときに自分の意見を押し付けるような言い方をするのはNGです。
社長の意見や考え方を尊重せず、反対意見ばかり述べてしまったり、疑問点を過剰に投げかけたりすると、社長が引いてしまうことがあります。また、たとえ肯定的でも、インタビュアーが喋りすぎるのはおすすめできません。
できるだけ自由に話してもらい、社長自身の言葉を引き出すことが大切なのです。
社長のビジョンや考え方を理解するように努め、記事の主訴になる内容や社長の個性・魅力が伝わるエピソードが出てきたら、追加質問や意見・感想を投げかけてみましょう。
専門用語や専門知識を多用しない
企業のトップとしてのリーダーシップはもちろん、その業界における高い専門性や経験を持つ社長へのインタビューでは、「稚拙な取材はできない」と身構えてしまいますよね。そのため、社長の話をしっかりと理解するため、可能な限り社長と同じ目線で対話をするために、業界や企業について事前リサーチを入念に行う方が多いでしょう。
しかし、実際のインタビューの場では、専門用語や業界用語を多用すると質問が難解になり、逆に答えにくくなってしまいます。
また、あまりにも専門的な話題ばかりになってしまうと、メディアやターゲットによっては読者の興味を削いでしまうかもしれません。
難しい言葉を使わなくても良いインタビューはできますし、きちんとリサーチをしたことは対話の中で社長に伝わるはずなので、シンプルでわかりやすい質問を心がけましょう。
社長インタビューのおすすめ質問例
ここでは、社長インタビューで必ず聞いておきたい内容や、記事化したときに面白くなる質問をご紹介します。
どのような質問がウケるのかは、企業や社長の特徴、メディアの種類や読者層によって異なりますが、いくつか例を挙げてみます。
読者のペルソナや記事の目的に合わせて取捨選択してくださいね。
社長のキャリアや経験について
プロフィールを書く際に欠かせない内容です。
また、社長の職歴や人生経験を掘り下げることで、その人物像や考え方が読者に伝わり、企業や社長に対する信頼感や親近感が高まります。
事前に資料を貰っているケースもあると思いますが、インタビューの場で確認の時間を設け、追加質問もしてみましょう。
インタビュー冒頭のウォーミングアップとしてもおすすめですよ。
会社の理念やビジョンについて
どのような種類の社長インタビューでも鉄板の質問になります。
掲載するメディアや読者層を問わず、どのような目的のインタビュー記事であっても、企業理念や将来へのビジョンは、必ず押さえておきたい内容です。
会社の存在意義や将来の展望について、社長の考えや想いをヒアリングすることで、企業に対する読者の理解が深まるでしょう。
業界や市場の動向について
ビジネス系のメディアや社内報などに掲載する社長インタビュー記事で扱いたい内容です。これらの読者層は、もともと業界やビジネス全般に関する知識や関心が高い人々なので、専門的な内容が多めになっても大きな問題はないでしょう。
業界や市場の動向を踏まえたうえで、企業の経営方針やビジネス戦略、今後の展望などをヒアリングしてみてください。
社内教育や人事制度について
社員を大切にする姿勢や企業文化が伝わる質問なので、採用系のコンテンツには特におすすめです。
その他のメディアでも、人材育成や組織運営に主眼を置いた記事を作る場合や、マネジメントに対する社長の考え方や企業の魅力にフォーカスしたいときに適しています。
社内教育や人事制度には、企業の個性や社長の想いが滲み出るので、書き方によってはとても魅力的な記事になりますよ!
思い出深い仕事・大変だった仕事について
過去に経験してきた挑戦や苦労について聞くことで、社長の人物像や信念が伝わります。
どうやって試練を乗り越えたのか、なぜ乗り越えることができたのか、その経験を以後どのように活かしているかなど、深堀りしやすい質問でもありますね。
外部のビジネスマンや経営者、自社の社員、学生など、幅広い読者層の興味をそそる内容です。
社長の生い立ち・趣味・学生時代のエピソードなど
社長のプライベートな一面を知ると親近感・好感度が高まるため、ここに多めの文字数を使うことも珍しくありません。
社内報や採用系のコンテンツ、その他の記事でも社長の人柄にフォーカスしたい場合には特におすすめ。
話しやすい内容なので、インタビューの場が和む・緊張が解けるというメリットもあります。ただし、過度に個人的な質問や配慮を欠いた質問は避けましょう。
愛読書やお気に入りの映画について
社長の知識や価値観、考え方などが、間接的に伝わる質問です。気に入っている理由もあわせてヒアリングすることで、社長の人柄がより理解できるでしょう。
ただし、社長自身が読書や映画鑑賞を好んでいないと空振りの質問になってしまいます。インタビューの中で本や映画のタイトルが出てきたときや、趣味として聞き出せたときがチャンスです。
社長インタビュー記事の例
最後に、おすすめしたい社長インタビュー記事をピックアップしてみました。
それぞれに魅力がありますので、取材やライティング時の参考にしてみてくださいね。
株式会社キングジム 代表取締役社長 宮本 彰氏
記事タイトル:「社長の意見よりも、現場にいる社員たちの声の方が正解になる」
【リーダーナビ】掲載。「商売」に触れ育ち、社員の声を大切にする経営哲学を持つ社長が、新たな市場開拓や未来への展望について語る。社長の生い立ちや温かい人柄もよく伝わる記事。
株式会社おてつたび 代表取締役CEO 永岡 里菜氏
記事タイトル:「どこ、そこ?」と言われる地域の魅力を広めたい」
【MIRAERROR】掲載。「地方の魅力を伝えて多くの人々に訪れてもらい、地方と都市が支え合う未来を目指す」という同社のビジョンが、読者にやさしい口調で語られている。
株式会社OLC 代表取締役 大津 庸子氏
記事タイトル:「第一次産業に代表される日本の魅力を、熱く世界に届けていきたい」
【ニッポンの社長】掲載。ドローン空撮や社会貢献型M&Aで独自の価値を提供する企業。社長の熱い想いが軽快な文体で綴られ、動画では肉声を聞くことも可能。
河村産業株式会社 取締役社長 近藤 利文氏 × 同志社大学4年生 佐藤 亮氏
記事タイトル:「指示待ち人間に無くて、主体的人間に有るもの」
社長と大学生の対談記事。【HR session】掲載。仕事に対する熱い想いや自己成長の重要性について、インタビュアーの学生が自然体で問いかけ、社長のリアルな言葉を引き出している。
株式会社エイチ・アイ・エス 代表取締役会長 澤田 秀雄氏
記事タイトル:「〝よい失敗〟の積み重ねの上にあるベンチャー企業の成功」
【LEADERS FILE】掲載。ハウステンボス再生秘話、チャレンジと「良い失敗」の積み重ねが生む成果、アジアビジネスの将来性が、読者の興味を引く三人称のストーリー調で展開される。
まとめ
インタビュアーにとって、社長や経営者への取材は正直かなりの緊張感があります。
ベテランのライターであっても、社長インタビューの前には通常より入念な準備をしたり、現場で身構えてしまったりすることが多いでしょう。
その一方で、たくさんの部下たちを見守り育ててきた社長は、他者の小さなミスに対しては寛容だったりもします。社長からの信頼を得るため、気持ち良く話してもらうための事前準備やマナーは徹底しつつ、インタビュアーも適度に甘える気持ちでリラックスして臨んでみてくださいね。