ライターや編集者にとって、学校取材は依頼を受ける機会が多い案件の一つです。
その中でも圧倒的に多いのは、一般的なメディアに掲載されるものよりも、学校のパンフレットやホームページ、広報誌などに載せるインタビュー記事。
大学や専門学校、高校はもちろん、私立校であれば中学校や小学校、幼稚園・保育園も独自のパンフレットや広報誌などを作っていることもあるでしょう。
そこで今回は、主に進学希望者向けのPRや在校生向けの情報提供を目的とした「学校取材」におけるコツやポイントを徹底的に解説します。
【こんな方におすすめ!】
- はじめての学校取材なので、まずは基本的なコツやポイントを知りたい方
- 学校取材は何度か経験があるけれど、いつもありきたりのインタビューになってしまう方
- もっと良質なインタビューをして、素敵な記事を作りたい方
学校のPRや情報提供で取材記事が果たす役割
学校(大学・専門学校・高校・中学校・小学校・幼稚園・保育園)のパンフレットやホームページ、広報誌などは、学校の特徴の紹介・情報の提供・コミュニケーション促進のための重要なツールです。
そこに掲載される主な情報には、学校理念・教育方針、ミッションやビジョン、校風や授業カリキュラムなどが挙げられますが、これらはあくまで学校の「基本情報」にあたる部分。
その「基本情報」に肉付けや裏づけをしていくことが、取材の役割と言えます。
まずは、学校のPRや情報提供に取材が役立つ理由(取材記事が果たす役割)を整理してみました。
リアルな視点を提供する
学校の雰囲気、教育理念がどのように授業へ活かされているのか、部活や委員会などの学生活動はどのように行われているのか─。
パンフレットやホームページを見ても、箇条書きや短い説明文が書かれているだけでは、なかなか中身や実態を想像できませんよね。
一方で、在校生・卒業生・教師・スタッフなどのインタビュー記事を載せると、読者に学校のリアルな様子が伝わりやすくなります。
一般的なPR文書や情報だけでは伝わりにくい、具体的で生き生きとした視点を提供することで、読者は学校の実態をイメージしやすくなり、情報の信憑性や信頼感が高まるのです。
個々の体験を共有する
インタビュー記事は、特定の個人の経験や見解を通じて、学校で過ごしている(過ごしていた)人たちの個々の体験を共有する絶好の方法です。
具体的な体験談を共有してもらうと、日々の学校生活や学習環境について詳細な情報が得られることはもちろん、学校やインタビュイーに対する興味や親近感も深まるはず。
卒業生のインタビューでは、学校で受けた教育や学生生活が、その後のキャリアや人生にどう活かされているのかを知ることもできます。
これらは、進学先を検討している子たちにとって大変貴重な情報ですし、教育の成果を具体的に示して学校の価値を上げることにもつながるでしょう。
学校の文化をアピールする
在校生・卒業生・教師・スタッフへのインタビューを通じて、学校の文化や価値観をアピールできます。
学校独自のプログラムやイベントにスポットをあてるインタビューやレポートなどは、まさにその最たるもの。
他校との差別化という意味でも意義が大きいので、進学希望者に向けたパンフレットやホームページの学校紹介などでは、特に重要な役割を果たすでしょう。
在校生や卒業生はもちろん、学校と教員のエンゲージメント向上にもつながります。
また、学校の関係者以外(地域の方など)も読者に加わる広報誌などでは、より多くの方々が学校に興味を持つきっかけになるはずですよ。
学校取材における取材対象者の種別と取材目的
学校(大学・専門学校・高校・中学校・小学校・幼稚園・保育園)のパンフレット・HP・広報誌などに掲載するインタビュー記事には、いくつかの種類があります。
ここでは、学校取材で想定される取材対象者(インタビュイー)の種別と、それぞれの取材目的(記事の主眼)について整理していきましょう。
取材対象者 | 取材目的(記事の主眼) |
校長先生・園長先生 | 学校理念、教育方針、学校として考えている自校のミッションやビジョンなどのヒアリング。学校全体の紹介や学校運営全般の情報発信が目的の記事で、学校パンフレットや学校HPのほか、広報誌などにも見受けられる。 |
教師・幼稚園教諭・保育士 | 学校側の立場から、学校の教育や活動に関する内容を具体的に発信することが目的。学校イチオシのカリキュラムを担当している教師や、部活動顧問などがインタビュイーに設定されることが多い。 |
在校生 | 学校で実際に行われている授業、部活動や学校行事など、学校生活に関する具体的なエピソードを読者に提供する。進学希望者に向けたパンフレットやHPに掲載されることが多い。 |
卒業生 | 授業や学校生活に加え、進路選択に関する情報、学校による進学・就職のサポート、学びとキャリアの関連性などが語られる。在校生インタビュー同様、進学希望者向けのパンフレットやHPに掲載されることが多い。 |
学校取材のコツ~①事前準備編~
それでは、実際に学校取材をするときのコツを解説していきます。
まずは対人取材の基本である「事前準備」で押さえておきたいポイントからです。
取材対象者の種別や記事の目的によって、リサーチしたい内容や配慮したいポイントが変わってきますので、ご自身の案件に合わせて事前準備を行ってくださいね。
学校情報や教育関係のニュース等をリサーチする
取材対象者が誰であっても、学校の基本情報と教育業界のトレンドやニュース等は、ひと通り調べておきたいところです。
学校理念や教育方針については、校長先生(または園長先生)や、教師(または幼稚園教諭・保育士)にインタビューするときはマスト。
それらを旬の話題と絡めてヒアリングすると、深い洞察が得られることがあります。
大学や専門学校、専科がある高校では、学部やコースについても把握しておきましょう。
在校生や卒業生にインタビューする場合は、少なくとも取材対象者が所属している学部やコース、そこで学べる内容についてリサーチしておくと良いですね。
ほかにも、特色のある学校行事、学校周辺の飲食店や学生が集まるスポットなどについても軽く調べておくと、取材中に会話が弾みますよ。
取材対象は「学校」か「個人」かを認識する
記事の主眼は、学校や幼稚園・保育園なのか、それとも個人(教師や生徒)なのか。
まずここをしっかりと押さえておかないと、記事の方向性や取材でヒアリングするべき内容の見定めがが難しくなります。
たとえば、記事では学校の教育内容にフォーカスしたいのに、取材でインタビュイーの個人的なことだけをヒアリングしていたら、執筆するときに困ってしまいますよね。
「在校生の声」や「卒業生の声」など、対生徒のインタビュー記事の場合は、個人にスポットを当てることが多いので、それほど心配は要らないかもしれません。
一方で、校長先生や園長先生、教師、幼稚園教諭、保育士など、学校(園)側の方々へのインタビューは、主に学校のPRを目的としているケースもあるので要注意です。
質問リストを作成して共有する
記事の目的(誰に、何を伝えたい記事なのか)を正確に把握したうえで、取材でヒアリングするべき内容を事前に考えることは、すべての対人取材における基本です。
あらかじめ質問リストを作成して取材当日も手元に置いておけば、必要な情報を聞き漏らすリスクを減らせます。
また、事前にメール等で取材対象者に質問リストを共有しておくと、当日のインタビューがスムーズに進むでしょう。
在校生・卒業生に取材するときには、相手がインタビューに慣れていないことを想定し、取材前に簡単なレポート(ヒアリングシート)を記入してもらうケースも多いです。
ヒアリングシートがある場合、取材当日には記入内容をもとにして深堀りの質問をしていきましょう。
学校取材のコツ~②インタビュー編~
次に、学校取材のインタビュー現場で押さえるべきポイントの解説です。
対教員(校長先生、園長先生、教師、幼稚園教諭、保育士)と対生徒(卒業生、在校生)の両面から考察していきますので、ぜひ参考にしてください。
リラックスできる雰囲気を作る
インタビュイーが安心して話せる雰囲気づくりは、インタビュアーの重要なミッションですが、対教員or対生徒では少し様相が異なります。
ビジネス的な場面に慣れていない在校生や、社会人になって間もない卒業生への取材では、親しみやすい口調でフランクにインタビューを進めるライターや編集者が多いようです。
そのほうが、相手が緊張せずに心を開いて話してくれるケースもよく見られます。
ただし、誤解してはいけないのが、相手が在校生や卒業生などの若い世代であっても、マナーやリスペクトは必須だということ。
難しい言葉を使わない、取材の合間の雑談で適度に敬語をやめてみる等の工夫をしつつも、ていねいに接することは絶対に忘れないでくださいね。
ヒアリングした内容を整理しながら進める
学校取材に限ったことではありませんが、インタビュー中はヒアリングした内容を正しく確認できているか、適宜チェックバックすることを心がけてください。
特に、在校生・社会人デビューしたばかりの卒業生にインタビューする場合は、言いたいことを的確な言葉に置き換えるために、インタビュアーによるフォローが必要になることもあるでしょう。
一方、校長先生や園長先生・教師・幼稚園教諭・保育士の方々は、職業柄「わかりやすい言葉」で伝えることには長けています。
しかし、専門職ならではの見解や用語が出てくる可能性があるため、わからないことは聞き流さずに確認するのがおすすめです。
チェックバックが深堀りのきっかけになって、より詳細な情報や洞察を得られる可能性もありますよ。
思い込みを捨ててフラットな気持ちで臨む
こちらは、特に対教員(校長先生、園長先生、教師、幼稚園教諭、保育士)のインタビューで意識しておきたいポイントです。
教育業界は世間からの注目度が高く、トラブルがあればSNSなどで一気に拡散されて全国ニュースになってしまいますし、教育関係者はブラックな労働環境で苦しんでいる…などの情報もありますよね。
しかし、教育に携わる方々は、基本的には「教えること」や「育てること」に情熱を持っている方がほとんど。
聞き手があまりにもネガティブな部分にフォーカスしすぎると、教育の仕事の素晴らしさを否定されているようで、かえって嫌な気持ちになることもあるのだそうです。
インタビュアーは、あくまで冷静かつ客観的にアプローチすることを心がけましょう。
取材対象者・記事別!学校取材のおすすめ質問例
ここでは、学校取材に役立つ質問の例をいくつかご紹介します。
取材対象者や記事の種類ごとに、鉄板の質問やおすすめの質問例を挙げていますので、案件に合わせてセレクトしてくださいね。
在校生インタビューの場合
在校生インタビューは、主に進学希望者への情報発信が目的であることが多いです。
そのため、後輩たちが学校選びの参考にできる情報や、授業・学校生活の魅力を引き出す質問をおすすめします。
下記のような質問をすることで、授業、学校生活、卒業後の可能性などを、読者が具体的にイメージできるでしょう。
「この学校を選んだ理由、決め手は何でしたか?」
「授業でどのようなことを学んでいますか?面白い・役に立つ授業は何ですか?」
「部活動や学校行事など、授業以外の学校生活はいかがですか?」
「○○さんが感じる、この学校の一番の魅力や強みは何ですか?」
「希望の進路と、進学・就職に向けた活動状況を教えてください。」
卒業生インタビューの場合
卒業生インタビューは、進学希望者に向けた情報発信や、これから進路選択をする在校生に向けた情報発信が目的であることが多いです。
授業や学校生活に関すること、学校での学びと卒業後のキャリアの関連、進学・就職時のサポートに関すること等を網羅していくと良いでしょう。
「学校の授業で、特に役に立ったものは何でしたか?」
「学生生活を送っていた中で、一番印象に残っている出来事を教えてください。」
「学校での学びは、今の仕事でどのように活かされていますか?」
「今の仕事に就くことを決心したのは何年生のときで、何がきっかけでしたか?」
「希望の進路を決めた後、先生や学校によるサポートはいかがでしたか?」
教師インタビューの場合①特定の授業や活動を紹介する記事
学校パンフレットやホームページ、広報誌などには、授業カリキュラムや部活動、ボランティア活動など、学校独自の取り組みを詳しく紹介するために、担当教員や顧問のインタビュー記事を載せることがあります。
目的が明確なので比較的インタビューしやすい部類に入りますが、ただの情報収集に留まらないように深堀りの質問を織り交ぜるのがコツです。
「(授業や活動の)概要と、この学校ならではの特色を教えてください。」
「学生たちの反応はいかがですか?」※幼稚園や保育園の場合は保護者の反応も。
「(授業や活動を進めるための)先生方の連携体制について教えてください。」
「この授業や活動を通して、○○先生自身が実感してきた成果は何ですか?」
「特に印象に残っているエピソードについて教えてください。」
教師インタビューの場合②学校紹介や教員紹介の記事
学校紹介の取材は校長先生や園長先生など管理職の先生が対応することが多く、教員紹介の記事では通常の教師・幼稚園教諭・保育士などにもインタビューを行います。
相手によって質問のポイントが異なるので、「共通の質問」「管理職への質問」に分けて整理してみました。
【共通の質問】
「教員(教師・幼稚園教諭・保育士)になろうと思ったきっかけは何ですか?」
「この仕事のやりがいや醍醐味、教員になって良かったと思うことを教えてください。」
「教員生活の中で、心に残っているエピソードをお聞かせください。」
【管理職への質問】
「この学校の特色や、大切にしている教育方針についてお聞かせください。」
「昨今の教育課題に対する考えや、解決のために取り組んでいることはありますか?」
「学校ぐるみで特に力を入れている授業や活動について教えてください。」
学校インタビュー記事の例
最後に、インターネット上に公開されている学校取材記事や学校パンフレットの中から、おすすめの記事をご紹介します。
埼玉福祉保育医療製菓調理専門学校 キャンパスライフレポート
記事タイトル:わたしの料理で皆を笑顔に。そんなお店を持ちたいです!
【スタディサプリ進路】に掲載された、埼玉福祉保育医療製菓調理専門学校の在校生レポート。シンプルな記事構成の中で、学校選びに役立つ情報が網羅されている。学生らしく生き生きとした口調が文章に反映されているところも魅力的。
梅光学院中学校・高等学校 卒業生の声
記事タイトル:梅光学院中学校・高等学校に入学してくる君たちへ
梅光学院中学校・高等学校(山口県)のHPに掲載。13人の卒業生の写真とコメントを紹介。短くシンプルな文章の中に、13人が体験した学校の特色や教育内容の魅力が散りばめられ、学校生活や卒業後の進路への期待感が膨らむ。
マロニエファッションデザイン専門学校 先生インタビュー
ページタイトル:先生インタビュー ※同ページ内に複数のインタビューを掲載
マロニエファッションデザイン専門学校(大阪府)HPに掲載されているインタビュー記事。取材対象の先生の仕事内容、学校の魅力や特色、今後のビジョンなどが親しみやすい口調で語られ、一読するだけでも学校の良い雰囲気が伝わってくる。
桐蔭学園 校長インタビュー
ページタイトル:TOIN TIMELINE 校長インタビューの記事一覧
桐蔭学園(神奈川県)のウェブマガジンでは2017年より校長インタビューを掲載。2023年7月現在までに20本以上の記事がUPされている。発信したい情報に合わせて文体や記事構成に工夫が見られ、さまざまなバリエーションの校長インタビューで参考になること間違いなし!
順天堂大学 スポーツ健康科学部パンフレット
ページタイトル:順天堂大学 入試情報 学部パンフレット
順天堂大学のHPでは、大学案内(総合パンフレット)および各学部のデジタルパンフレットの閲覧が可能。中でもスポーツ健康科学部のパンフレット(※2023年7月現在のもの)には4本ものインタビュー記事が掲載され、学生生活を具体的にイメージしやすい仕上がりになっている。
まとめ
学校のパンフレットやホームページ、広報誌などに掲載するインタビュー記事は、学校の魅力と独自性を伝えるための貴重な手段です。
在校生や卒業生、教師、スタッフの実体験を通じてリアルな視点を提供し、読者に学校の雰囲気や文化、教育の質を伝えることができます。
学校に関連する個人の経験や物語を通じて、読者は学校への共感や関心、信頼を深めることでしょう。
その魅力や特色を最大限に引き出す取材を行って、素敵な記事を完成させてくださいね!