農業・林業の取材、事前準備やインタビューのポイントは?おすすめの質問例や記事も紹介!

農業や林業は生活に欠かせない存在であるにもかかわらず、人手不足などによって存続が危ぶまれている産業です。
そのため、記事を通じて魅力を発信することで若手人材を確保したり、課題解決の方法(最新テクノロジーの活用など)を同業者間でシェアすることが急務となっています。

とはいえ、ライターや編集者としては「両親や親族が農業・林業に従事している」などのバックグラウンドがない限り、一般的な知識以外は未知の世界でしょう。
そこで今回の記事では、農業・林業系の取材をするときのコツやポイントを解説していきます!

【こんな方におすすめ!】

  • はじめて農業・林業系の取材をするけれど、知識や経験がなく不安な方
  • 取材の事前準備やインタビューの進行について、基本的なノウハウを知りたい方
  • 質の良いインタビューをして、取材対象者にも読者にも喜ばれる記事が書きたい方

農業・林業の取材記事が担う役割

はじめに、農業・林業に関する取材記事の意義と役割について考えていきます。
新聞や雑誌、Webサイトなど、あらゆるメディアに掲載された農業・林業系の取材記事には、主に3つの役割があるようです。
それぞれについて詳しく解説しますので、まずは自身の取材案件がどれに当てはまるのかをイメージしてみてくださいね。

役割1)農業・林業に対する理解の促進

農業や林業は私たちの生活に欠かせない存在ですが、その業務内容や生産過程を熟知している人は多くありません。
取材記事を通じて発信することで、農業であれば食べ物、林業であれば木材、紙、バイオマスエネルギーなどの生産過程について、読者が詳しく知るきっかけを与えられるでしょう。

その結果、持続可能性への意識が高まる、良質な農作物や製品を選定できるようになる等、消費者意識の変化も期待できます。
また、気候変動や土壌劣化、生物多様性の喪失など、環境問題が農業・林業に及ぼしている影響について、理解を深める機会にもなるはずです。

役割2)農業・林業の課題解決方法や成功事例のシェア

慢性的な人手不足、度重なる豪雨や猛暑などの気候変動による影響、有害鳥獣による被害、持続可能な農業・林業をどのように模索していくのか─。
農業・林業の分野には、さまざまな課題が山積しています。

近年は、これらの課題の一部をテクノロジーで解決するべく、スマート農業やスマート林業が進んでいるほか、地域のコミュニティが団結して課題解決に取り組むケースなども増えています。
各地の取り組みや成功事例を取材して発信することは、有効な課題解決方法を他の地域に普及させるチャンスになるのです。

役割3)農業・林業の魅力をPRして担い手を育てる

代々農業や林業に携わってきたけれど後継ぎがいない、子がいても継ぎたがらない、若者が都市部に移住してしまう─。
農業・林業は、特に担い手不足に悩まされている業界だと言えます。
その一方で「都市部から地方に移住して農業・林業に携わりたい」という若者が一定数いるのも事実です。

地方移住&農業・林業への就業に成功した方の取材記事は、「興味はあるけどハードルが高い」と感じる人々にとって、大変有益な情報になります。
また、これから進路を決める学生に対して、農業・林業の魅力を発信することも、将来の担い手を増やすための手立てになるでしょう。

農業・林業系取材のコツ・ポイントと注意点

次に、農業・林業の取材のコツ、注意するべき点について解説していきます。事前調査の段階から、実際のインタビューに至るまで、重視すべきポイントをピックアップしてみました。

事前のリサーチを入念に行う

事前にリサーチを行って取材対象に関する基本的な知識を身につけることは、対人取材におけるマストタスクです。
農業・林業の仕事内容や基本的な専門知識、業界全体の課題やトレンドなどを知っておくことで、より深く具体的な質問を投げかけ、質の高い情報を引き出せるようになります。

また、農業・林業は、その地域の地理的・天候的な特徴とも密接な関係があるので、農業・林業に影響を与える自然環境についても把握しておくと良いでしょう。
地域の特性を尊重し、理解しようとする姿勢は、インタビュイーとの信頼関係を築くためにも役立ちます
地元特有の文化や伝統についても知識を得ておくと、取材の合間の雑談などに重宝しますよ!

農業・林業の課題や問題点を理解する

前述したように、農業・林業は課題が多い業界です。
たとえば、気候変動による影響、生態系への影響、労働力不足、持続可能性への取り組みなどが挙げられます。
これらに対する理解なくして実りある取材はできないと言えるほど、社会的な問題に発展している現状があるのです。

農業・林業が抱える課題は、一般的にも広く認知されているからこそ、どのような方向性の記事にもトピックとして盛り込める汎用性があります
どこまで記事に反映させられるかはケースバイケースになりますが、農業・林業の課題や問題点を取材前に理解しておくことは、より有意義な取材をするための一助となるでしょう。

記事の主旨に基づいて質問リストを作成する

こちらも、あらゆる対人取材におけるマストタスクです。
記事で伝えたいことを明確にしたうえで、「これだけは外せない質問」をいくつかピックアップしておくことで、取材当日のヒアリング漏れを防ぐことができます。
質問リストをインタビュイーに事前共有しておくと、回答を吟味する時間を提供できて、取材当日により深い洞察を得られることもありますよ!

ひとつ注意点として挙げるとすれば、質問リストは過剰になりすぎないようにすること。
取材は生モノなので、単なる質疑応答ではなく自然な対話の中から生まれる情報の価値が非常に大きいです。
インタビュイーが自由に話せる余白を残すように心がけてくださいね。

農業・林業従事者に対する尊敬と敬意を示す

すべての対人取材に言えることですが、インタビュイーの仕事や視点に対する敬意を持つことは、取材における基本的なエチケットです。

農業や林業は、物理的にも精神的にも困難な仕事であることを認識して、その労力と専門知識に対する敬意を忘れないでください。
地域の文化や規範とも深く関わっていることが多い職業なので、そこにも敬意を示すことで、インタビュイーと良好な関係を築いて信頼を得られるでしょう。

また、農業や林業は季節や天候に左右される部分が多く、日々の作業スケジュールが想像以上にタイトだったりもします。
そのため、取材のスケジューリングにおいても相手の仕事を尊重して、先方の都合に合わせるように心がけてくださいね。

リラックスできる雰囲気づくり

こちらも農業・林業の取材に限ったことではありませんが、インタビュイーが自由に意見を述べるためには、リラックスできる環境を作ることが重要です。
まずは、取材の目的とプロセスを明確に説明し、インタビュイーが主旨を理解したうえで話せるようにアシストしてください。

場所の選択も意外と重要で、インタビュイーが自分の仕事や生活について話しやすい場所を選ぶと良いでしょう。
インタビュー中は、相手の意見や時間を尊重することを常に忘れず、「聞き上手」であることが求められます。
笑顔や適切な相槌はもちろん、インタビュイーが返答に困っているような場面では適宜フォローをするなど、柔軟な対応ができるようにしたいですね。

視覚素材を有効に活用する

農業や林業は、映像や画像などの視覚素材に“映え”が期待できる分野です。
写真はもちろん、Web媒体であれば動画なども取り入れると、農業・林業の仕事の実態や環境を、具体的かつ効果的に伝えることができるでしょう。
1日の作業の流れを追ったビデオ、季節ごとに異なる農作物の写真、季節の移り変わりによる山林の様子の変化など、読者の興味をそそる素材がたくさんあります。

また、視覚素材は感情的な共感を引き出すためにも役立つので、作業中の真剣な表情や、収穫の瞬間など、感動的な瞬間をキャッチしたいものですね。
ただし、写真や動画の撮影を行う際には作業を妨げないように心がけ、公開に際してはプライバシーへの配慮を忘れないようにしましょう。

農業・林業系の取材でおすすめの質問例

ここからは、農業・林業系の取材でおすすめの質問、記事化するときに役立つ質問を、いくつかピックアップしてご紹介したいと思います。
掲載媒体や記事のテーマに合わせて、ぜひお役立てください!

農業・林業の道に進んだきっかけや仕事の魅力

農業・林業への参入や、地方への移住を促進する目的の記事には、よく見られる質問です。
また、農業・林業系の学校パンフレットなどでも、鉄板の質問と言えますね。

個々の経験や情熱が伝わることはもちろん、経験者から語られる言葉は、農業・林業に参入する機会を模索している人々にとっても貴重な情報となるでしょう。

家業を継いで農業・林業に就いているケースでも、「この仕事を継ごうと明確に決心した理由やきっかけは何でしたか?」などのアレンジが可能です。

季節ごとの作業の流れ、1日のタイムスケジュール

農業や林業の日常的なリアリティを伝えるために役立つ質問です。
特に、これから農業・林業への就業を考えている読者が読むと、仕事の具体的な内容や働き方をリアルにイメージすることができます。

また、農作物や木材、紙などが市場に出る前に、どれだけの手間や献身があるのかを伝えることもできるので、一般の人々が農業・林業という産業を理解するためにも役立つでしょう。

農業・林業における課題と対処方法

最も世間に認知されている「人手不足」を筆頭に、農業・林業の分野には多くの課題が山積しています。
たとえば近年の猛暑や豪雨などの気候変動も、一次産業に甚大な影響を及ぼしていますよね。

課題の解決に向けたアプローチを一緒にヒアリングすることで、同じ課題に悩む同業者にヒントを提示できるでしょう。
地域ごとに抱えている課題が異なっていたりもするので、地域特性についても尋ねてみるのがおすすめです。

最新技術の活用状況について

ドローン、AI、ロボットなどを活用した「スマート農業」「スマート林業」は、外すことのできないテーマです。
たとえばドローンの場合、農業では農薬散布や鳥獣害対策、作付け調査などにも活用されていますし、林業では中病被害木調査や資材の運搬などに活用されています。

テクノロジーの活用は、農業・林業の課題である「人手不足の解消」や「業務の効率化」にも大いに貢献するものです。
業界全体の維持・発展に寄与できるテーマなので、積極的に発信していきましょう!

地域のコミュニティとの関係性について

農業や林業は、地域のコミュニティと深く結びついています。
地元のコミュニティとの関わり方や、その関係性がどのようにビジネスに影響を与えているのかを理解することは、大変有益です。

農業・林業は、その地域にとって重要な産業であることに加え、地域特有の文化として大切にされているケースも多々あります。
地方行政と連携して、さまざまな施策や取り組みを進めていることも珍しくないので、ぜひヒアリングしてみましょう。

SDGsへの取り組みについて

農業や林業は、気候変動、飢餓への対策、生物多様性の保全など、SDGs(※)の多くの目標に直接的な影響を与えるセクターです。
その取り組みを発信することで、持続可能な未来に対する貢献度をアピールすることができるでしょう。

成功事例や挑戦を共有することで、ほかの産業やコミュニティが学び、SDGsへの意識や取り組みを強化する手がかりを得られるかもしれません。

※SDGs…2015年9月25日に国連総会で採択された、持続可能な開発のための17の国際目標。

農業・林業系インタビュー記事の例

最後に、インターネット上に公開されている農業・林業系の取材記事の中から、ぜひ一読をおすすめしたい記事をご紹介します。
農業・林業の魅力を伝える記事、移住&農業・林業への従事を促進する記事、農業・林業の最先端技術に迫る記事など、さまざまなバリエーションでピックアップしてみました。

【マイナビ農業】掲載|川名桂さん|農業、起業

記事タイトル:生産緑地で全国初の就農!東大卒女子が作るミライの都市農業

東京大学農学部卒業後、農業関連企業での勤務を経て独立就農した川名さん。生産緑地を借り受けての独立就農は全国初。農地や作物の選び方、研修時代の師匠や就農仲間のこと、農作業中のおすすめアイテムなど、興味深い情報が満載。

農業とITの未来メディア【SMART AGRI】掲載|田村征士さん|スマート農業

記事タイトル:1カ月から利用できる菜園シェアサービス「ハタムスビ」で、マイファームが描く“自産自消”の未来の形とは?

2007年の創立以来、貸し農園や農業学校、農業コンサルティングなど、農業を総合的に支援するサービスを提供している株式会社マイファーム。畑のマッチングサービス「ハタムスビ」の紹介を主要テーマに、「人を育てるスマート農業」の真髄が明かされる。

高知県移住ポータルサイト【高知家で暮らす】掲載|村澤友輔さん|林業、移住

記事タイトル:移住者インタビュー 山仕事だけが林業ではない。新しい林業のかたちを模索する。

高知県佐川町で林業に従事する村澤さんは、地域おこし協力隊への応募を機に神奈川県から移住。前職は医療機器メーカーの営業。木々に触れる暮らしの魅力と、イメージにとらわれない林業の可能性がたっぷりと語られた記事。

【一般社団法人Pnika】ウェブサイト掲載|中井照大郎さん|林業、ドローン活用

記事タイトル:最新技術で森林資源をもっと活用していきたい。

2017年に東京から岡山県西粟倉村に移住し林業ベンチャー(株式会社百森)を立ち上げた中井さん。前職は商社マン。面積の9割が森林の村で、ドローン活用や山主の集約化による効率的な林業経営を推進。補助金制度や行政との連携に関する内容も必見。

【アオニサイファーム】ウェブサイト掲載|會原亮太さん、岡田祐司さん|JAの役割、地域の農業

記事タイトル:【茨城県つくば市豊里】JA職員の會原亮太さん、岡田祐司さんが考える、 農業に関わる非農家の立場からみたつくばの農業について

地元で農業を学ぶ大学生がインタビュー&記事化を担う「アオニサイファーム取材班」。インタビュイーはJAつくば市豊里の職員2名。学生のエネルギッシュなインタビューに呼応するかのように、JAの役割や地域の農業を生き生きと語っている。

まとめ

農業や林業は、生活に欠かせない存在でありながら、慢性的な人手不足に悩まされている業界です。
しかし、最新技術を導入したスマート農業・スマート林業の発展や、地方への移住ニーズ向上など、これからの可能性が非常に楽しみな分野であることも事実。

取材記事は、その魅力と可能性を世の中に発信して業界全体を盛り上げていくという、重要な役割を担うことができます。
良質なインタビューをして素敵な記事を書き、農業・林業の未来に貢献していきたいものですね!