自治体取材のコツを解説!事前準備のポイントやインタビュー時の留意点は?

自治体への取材は、地域の取り組みやニュースなどの情報を世の中に伝えるための重要な手段です。
言葉にするとシンプルなのですが、自治体取材には他の取材案件とは異なるスキルや心構えが求められます。

そこで、今回の記事では、自治体取材のコツや留意するべきポイントを解説し、より質の高い取材と記事の作成を実現するためのヒントを示していきたいと思います。

【こんな方におすすめ!】

  • はじめて自治体取材をするので、基本的なノウハウや準備のポイントを知りたい方
  • 自治体の取材・記事作成ならではの注意点を押さえておきたい方
  • 質の良いインタビューをして、自治体と読者の両方にとって有益な記事を書きたい方

自治体取材の特殊性と重要性

自治体の取材は、他の取材とは異なる特性を持っています。
まずは、自治体取材の特殊性と重要性について、詳しく解説していきましょう。

自治体取材の特殊性

自治体取材は、地方の政策や公共サービス、地域の課題など、独特のテーマを扱います。
地域やコミュニティとのかかわりも深いため、自治体取材を行う際には、まずその自治体が持っている特徴や背景、課題を理解することが重要になるのです。

一般的な取材では、その業界のトレンドや課題、企業が独自で行っている取り組み、インタビュイーの経歴などをリサーチすれば、ある程度の準備ができます。
一方の自治体取材では、公的な機関であるからこその特殊な事情や、地域住民の反響を加味するなど、よりマクロな視点が必要です。

自治体取材の記事は、一般的な報道(公開情報)ではカバーし切れない情報を掘り下げる役割も持っているため、インタビュイーとの信頼関係を築く努力や、地域の文化的・社会的背景を理解して尊重するセンシティビティが求められるでしょう。

自治体取材の重要性

自治体取材は、「地域社会の情報を公にする」という重要な役割を担っています。
自治体の政策やサービスなど、住民生活に直接影響を及ぼす内容を取り扱っていることに加え、地域の課題や成功事例を取り上げることは、他の自治体や国政にも影響を与えて社会全体の改善につながる可能性もあるのです。

そのため、自治体関連の取材記事では、「的確な報道」が通常以上に求められると言っても過言ではありません。
読者に誤解や早合点を与えるような書き方はご法度なので、インタビューもライティングも、細心の注意を払いながら進めていく必要があります。

自治体取材の意義は、公開情報を収集するだけではなく、役場の職員や地域住民からの信頼を得て、生の情報を得ることです。
しかし、得た情報を「どのように扱うのか」については、熟慮しなければなりません

自治体取材記事の種類と目的

次に、よくある自治体取材記事の種類(掲載媒体など)と、それぞれの目的を見ていきます。
種類によって読者のニーズや記事の形式が異なるため、自身の案件がどれに当てはまるのかを把握して、記事の目的や読者のペルソナに沿った取材&記事制作を行いましょう。

記事の種類目的
新聞
(地方紙・全国紙)
自治体の最新情報、特集記事、人物特集、コラムなど。特に地方紙は自治体の情報に特化した内容が多い。読者層は不特定多数。
オンラインメディア      ニュースサイトや地域専門のオンラインメディア、ブログなど。オンライン媒体は更新頻度が高く、時事的なニュース記事やブログ形式のコラムが掲載されやすい。読者層は不特定多数。
雑誌・会報誌一部の雑誌は、自治体の特集記事や人物特集を取り上げる。また、特定のテーマや分野に特化した雑誌や会報誌(ex.地域開発や教育など)には、そのテーマに関連する自治体の記事が掲載されることがある。読者層には専門性がある場合が多い。
自治体の公式サイト
・パンフレット
自治体自身が発行するニュースレターやウェブサイト。自治体の発表や新政策、公共サービスの情報などが掲載される。読者層は地域住民や地域の企業が主。
自治体の公式SNSFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアには、リアルタイム性が求められるニュース記事や、コミュニティとの直接的な対話を目的としたコラムなどが掲載される。読者層は地域住民や地域の企業、ほか不特定多数。

自治体取材のコツ~①事前準備編~

それでは、自治体取材をするときのコツやポイント、自治体取材ならではの留意点について解説します。
まずは、取材前の事前準備で行うべきこと、意識するべきことを考えていきましょう。

自治体の特徴や方針、事業内容をリサーチする

どのような取材であっても、取材前のリサーチは欠かせません。
自治体取材の場合は、まず自治体全体の特徴や行政の方針について、HPなどを見て把握しておきましょう。

また、自治体取材は特定の事業や地域の課題をテーマにすることが多いです。
自治体が推進している事業内容の詳細や、地域課題の内容および解決に向けた取り組みなどを、取材前にしっかりとリサーチしてください。
自治体のHPやSNSのほか、過去に公開されているニュースや特集記事があれば、そちらも貴重な情報源になりますよ。

自治体ならではの特性を理解する

自治体の事業や取り組みは、一般企業とは異なるステップを踏みながら進むものです。
ひとつの決定を出すために何度も協議を重ね、案が成立しても予算化するまでに更なるハードルがあったりします。
それは、一企業よりも組織が大きいことや、住民が支払う貴重な税金を財源としていること等に深く関係しているのでしょう。

自治体事業のフローを、インタビュアーが完璧に把握しておく必要はありません。
ただ、ひとつの事業を進めるために大変な労力や時間がかかることを理解していないと、取材時に話が噛み合わないことがあります。

質問リストを作成して共有する

限られた時間の中で効率的に取材を進め、ヒアリング漏れを防ぐためには、事前に質問を準備しておくことが有効です。
掲載する媒体や読者層、記事の主眼となるテーマに沿って、あらかじめ質問をリストアップしておきましょう。

ただし、あまりにも質問が多いと、取材が「質疑応答」のようになってしまうので要注意。
記事の根幹となる質問を少なめに用意することで、取材時に「対話」ができる余白を残しておくのがコツです。
また、作成した質問リストを先方にも送付しておくと、取材当日までに回答を考えてもらえたり、資料を準備してもらえることもありますよ。

自治体取材のコツ~②インタビュー編~

次に、取材当日のポイントを解説します。
インタビュー時の心構えや、上手く対話するためのコツ・ポイントを考えてみました。

偏見や思い込みを捨てる

国政や地方行政に対する世の中の目は、なかなか厳しいものがありますよね。
テレビやネットのニュースを見ていると、議員さんや行政の職員さんに対する不満のほうが目に付きやすいかもしれません。
しかし、実際に自治体取材をしてみると、その地域や住民のことを真剣に考え、熱い思いを持って業務に臨んでいる方が多いことに驚かされます。

遠まきに見ているだけでは分からないことを掘り下げていくのが、取材記事の役割です。
だからこそ、インタビュアーは一般的な印象に惑わされず、自治体職員の方々の思いや努力に最大限の敬意を払いましょう

自治体の事情に配慮を示す

事前準備編でも「自治体ならではの特性」に言及しましたが、インタビュー中も自治体の事情に配慮が必要です。
公開して良い情報・まだ公開できない情報の線引きや、住民のプライバシーへの配慮など、さまざまな留意点があります。

「自治体の取材記事=自治体からの情報発信」になるので、インタビュイーは常に「軽々しい発言はできない」と、細心の注意を払っているのです。
インタビュアーから配慮を示すことによって、相手は安心して話ができるようになります。
適宜「どこまで公開可能な情報ですか?」「どういう書き方なら差し支えないですか?」などの声かけをしながら進めていきましょう。

リラックスできる雰囲気を作る

自治体取材に限ったことではありませんが、対話はリラックスしてこそ本音が引き出せます
自治体職員といえば、役所などでテキパキと仕事をこなしている姿をイメージするかもしれませんが、少し踏み込んで話してみると面白い方々が多く、個性や魅力もたっぷり。

せっかくの取材なので、パーソナリティを最大限に引き出しながら、楽しいインタビューにすることを目指してみてください。
たとえ発信できる情報や書き方に制約があったとしても、インタビュイーの人柄や思いは、記事にしたときに滲み出るものです。
そのような記事は、自治体と読者のエンゲージメントを高める役割も果たしてくれることでしょう。

自治体取材で外せない質問

ここからは、自治体取材をするときに必ずヒアリングしておきたい質問、記事化するときに役立つ質問をご紹介します。

インタビュイーの経歴

各組織にもよりますが、自治体職員の方々には一般企業よりも短いスパンで「異動」があります
「同じ部署にいるのは長くても3年」というようなケースも珍しくありませんし、過去の経歴や本人の得意分野とはまったく異なる部署に配属されることも。
それでも多くの方々が、これまでに経験した業務や培った人脈などを活かしながら、現在の部署で活躍しています。

自治体には多様なセクションがあり、驚くような経歴を持っている方も少なくないので、自治体取材において経歴のヒアリングはマストと言えるでしょう。

地域課題と自治体の方針

自治体(地方行政)の主な仕事は、地域の課題を解決に導いたり、住民に安心できる暮らしを提供したりすることです。
取材では特定の事業や取り組みにフォーカスすることが多いと思いますが、大前提として自治体の特徴を理解するためにも、地域の課題や行政方針について、大まかなヒアリングを行いましょう

地理的な特徴、人口、産業、地域特有の課題などを尋ねたうえで、それらに対する自治体としての施策や取り組みへと話題を広げていきます。
ある程度は事前調査で理解していたとしても、あらためて取材の現場でインタビュイーから語ってもらうのがおすすめです。

記事の主要テーマに関する概要

自治体取材の記事では、その地域の課題、独自の事業・取り組みなどを主要テーマとして扱うことが多いです。
すでに何らかの事業や取り組みが始まっている場合は、自治体のHPに資料が公開されていたり、他の媒体にもニュースや特集記事がUPされていたりすることがあるので、一通りチェックしておきましょう。

ざっと概要を理解したうえで、公開されている情報だけでは分かりにくかったところ、詳しく尋ねてみたいところを洗い出し、当日の質問リストに加えます。
そうすることで、取材の際により深い洞察を得ることができるでしょう。

事業や取り組みの契機・経過・現状

自治体で新たな事業や取り組みを開始させるには、多くのステップが必要です。
事業を行う時期・進め方・必要な予算などの詳細を細かく検討したうえで、年に一度の議会に予算案を提出し、審議の末に承認されたら初めて開始の運びとなります。

つまり、議会の承認を得るだけの熱量と説得力がなければ、新しい事業は始められません。
言い換えると、自治体が実施している事業や取り組みには「確固たる動機や背景が存在している」ということです。

記事化すると非常に面白い部分なので、その事業や取り組みを開始したきっかけ、開始から現在までの経過(効果や反響など)を、しっかりとヒアリングしておきましょう。

困難だったこと&解決方法

自治体が独自の政策や事業・取り組みを実施する際には、数々の困難がつきもの。
「人手が不足している」「住民の理解を得にくい」「十分な予算がない」等は、多くの自治体が抱えている困難の最たる例です。

このような困難に対して、「具体的にどのような解決策を取ってきたのか」を記事で紹介すると、読者に大変有益な情報を発信できます。
特に同じような事業を検討している自治体にとっては、貴重なモデル事例であり、今後ためのヒントにもなりますので、ぜひヒアリングして記事に盛り込みたいところです。

今後の展望

契機・プロセス・現在までの結果ときたら、「今後の展望」や「目標」も必ずヒアリングしておきたい内容です。
自治体は短期、中期、長期で明確に目標設定をしていることが多いので、かなり具体的な話を聞くことができるでしょう。

このような内容を記事で発信することによって、自治体に対するサポートを国が検討する、自治体間の連携が進むなどの変化が起こり、より早く・より良い未来を描けるようになるかもしれません。
取材記事は、世の中全体で課題解決に取り組む契機を作るという役割も持っているのです。

自治体取材記事の例

最後に、参考になる自治体取材記事をご紹介します。
テーマやテイストの違う記事を5つピックアップしましたので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

山口県長門市・福井県福井市・福岡県北九州市|テーマ:地方創生

記事タイトル:地方創生の取り組みインタビュー|成功となる自治体の取組みとは?

【自治体・公共Week】掲載。官民連携で地方創生を成功させた3つの事例を紹介する記事。取り組みの経緯やプロセス、運営体制、市長や職員の思い、住民の反応など、幅広い情報を網羅。異なる3つの事例が読めるところもポイント。

新潟県胎内市|テーマ:ドローン関連システムの導入事例紹介

記事タイトル:〈WeeklyいろはMapper〉〜導入自治体様の声をお届け!新潟県胎内市様にインタビュー!

自治体向け農業DXソリューション「いろはMapper」の導入事例を紹介する記事。株式会社スカイマティクスのオウンドメディア【SMX Media】に掲載。ドローンと同システムを使った作付調査の様子や導入後のメリットが詳細に語られている。

青森県弘前市×福島県新地町|テーマ:ICT活用教育に関する自治体間連携

記事タイトル:~県を越えてつながる市町村~「東北の連携 ICT活用教育が生む絆」

青森県弘前市と福島県新地町の対談記事。【まなびポケット】掲載。ICTを活用した授業づくりの分野で密に連携する両自治体。連携が始まったきっかけ、連携に込める思いなどが語られており、分野を問わず自治体間連携を推進するためのヒントが得られる。

徳島県美波町|テーマ:過疎・地方創生

記事タイトル:「特別な“何か”に頼らない地域振興」にぎやかな過疎の町・美波町まちづくりの本音

【地方と都市のステキをつなぐ地方創生カンパニー】HP掲載。「にぎやかそ~にぎやかな過疎の町 美波町~」をスローガンに、サテライトオフィスの招致などを進める徳島県美波町の町長から、どこまでも柔軟な地方創生の在り方が示されている。

松戸市消防局|テーマ:職員インタビュー

ページタイトル:先輩職員インタビュー

松戸市消防局HPに掲載されている先輩職員4名(2023年月現在)のインタビュー。日勤・救急隊・救助隊・消防隊の職員が、志望動機、仕事のやりがい、担当業務の詳細、働き方などを等身大の言葉で語る。未来の後輩が参考にできる情報が満載。

まとめ

自治体(地方行政)の取り組みは、その地域の住民はもちろん、国や他の自治体にとっても重大な関心事です。
さまざまな地域の課題や、解決に向けた取り組みを記事化して紹介することは、社会全体に問題意識を共有し、自治体間や官民の協力体制を築くためのきっかけにもなり得ます。
これから進路を決める学生たちにとっても、自治体職員の熱意や努力に触れると、良いインパクトを受けるはず。

自治体取材は非常に意義が大きいので、自治体やインタビュイーの熱意や魅力を最大限に引き出す取材を行って、世の中にポジティブな一石を投じましょう!